研究課題/領域番号 |
22H03062
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
伊藤 清顕 愛知医科大学, 医学部, 教授 (50551420)
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研究分担者 |
宇根 瑞穂 広島国際大学, 薬学部, 教授 (20144826)
大澤 匡範 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (60361606)
梅澤 一夫 愛知医科大学, 医学部, 教授 (70114402)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ウイルス侵入機構 / 胆汁酸誘導体 / 侵入阻害剤 |
研究実績の概要 |
B型肝炎ウイルス(HBV)はpreS1領域のN末端側やC末端側の疎水性領域を利用してNTCPとの結合やエンドソーム膜と膜融合して巧みに細胞内に侵入している。我々は、この侵入機構に対して、胆汁酸の一般的な性質である疎水面と親水面を持つ両親媒性物質としての界面活性作用と側鎖の電荷を利用して効果的に阻害する方法を構築してきた。これまでに胆汁酸誘導体INT-767がHBVとその受容体であるNTCPとの結合を強力に阻害することを明らかにした。本研究において、INT-767の侵入阻害メカニズムを分子レベルで解析することによりHBVの肝細胞への侵入機構を詳細に解析した。これまでの研究成果により、preS1領域とNTCPとの結合を評価するpreS1 binding assayを使用した実験を繰り返すことにより、INT-767のHBVに対する侵入阻害機構が分子レベルで明らかになった。まずpreS1領域NTCP結合モチーフの疎水性アミノ酸集積部を親水性アミノ酸に置換したところ、INT-767による結合阻害効果は減弱した。また、preS1領域NTCP結合モチーフの疎水性アミノ酸集積部はそのままで、正電荷側鎖を持つアミノ酸を側鎖の電荷を持たないアミノ酸に置換したところ、INT-767による結合阻害効果はさらに減弱した。以上のことから、INT-767の胆汁酸ステロイド骨格の疎水面とNTCP結合モチーフに存在する疎水性アミノ酸集積部が疎水結合すること、さらにはINT-767の側鎖の負電荷が正電荷側鎖を持つアミノ酸とイオン結合することによりHBVに強固に結合し、NTCPとの結合を阻害することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
慶應義塾大学薬学部におけるNMR解析の結果、INT-767がHBVのpreS1領域・N末端側NTCP結合モチーフだけでなくpreS1領域・C末端側疎水性領域へも作用していることが明らかになった。このため、現在preS1領域N末端側とNTCPとの結合だけではなく、preS1領域全体を標的として細胞膜やエンドソーム膜との膜融合も含めたHBVの侵入機構を解析可能にする評価系を構築中である。preS1全長について評価を可能にするアッセイ系を構築するため、これまでのところ蛍光ラベル可能なpreS1全長ペプチドを発現するところまで完成した。さらにpreS1領域による膜融合を評価するためのアッセイ系を構築するため、TetOffおよびテトラサイクリン依存的にNanoLucを発現する細胞をそれぞれ作成し、preS1-エンドソーム膜融合定量システムの構築に成功した。また、慶應義塾大学薬学部において胆汁酸誘導体または低分子化合物とHBVとの結合様式を解明するために相互作用解析に必要なHBV preS1ペプチドの1H, 13C, 15NのNMRシグナルの帰属を確立した。また、INT-767によるFXR下流シグナルを介したHBVライフサイクルへの影響を解析するために、INT-767とオベチコール酸をPXBマウスに経口投与し、肝臓および血液の採取を終了した。今後、FXR下流シグナルの解析のためRNA-seqを実施する。
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今後の研究の推進方策 |
今後、preS1領域全体と細胞膜やエンドソーム膜との膜融合も含めたHBVの侵入機構を評価できるアッセイ系を完成させる。preS1全長に関しての評価系が完成すれば、これまで不明であったpreS1領域全体とNTCPおよびエンドソーム膜との膜融合も含めたHBVの肝細胞への侵入機構をさらに詳細に解析することが可能になる。さらに、preS1領域・N末端側のNTCP結合モチーフを標的とするだけではなく、preS1領域全体を標的とした薬剤の開発も可能になる。今後、このアッセイ系を使用して様々な胆汁酸誘導体や低分子化合物を使用してHBVの阻害効果を持つ物質をスクリーニングすることにより、最も有効な感染阻害剤をつきとめ、さらには薬剤の最適化を実施する。また、完成したpreS1領域による膜融合を評価するためのアッセイ系を利用したpreS1-エンドソーム膜融合定量システムを使用して、膜融合を標的とした薬剤の開発も進行する。膜融合を標的とした薬剤はHBVに対してだけではなく、SARS-Cov2やHIVなどのエンベロープウイルスに対しても効果を発揮する可能性がある。さらに慶應義塾大学薬学部との共同研究により、胆汁酸誘導体または低分子化合物とHBVとの結合様式を解明するためのNMR解析を進める。また、INT-767によるFXR下流シグナルを介したHBVライフサイクルへの影響を解析するためのRNA-seqを進める。
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