研究課題
重症心不全の予後はいぜん不良であり、新しい治療法の開発が求められている。心臓は再生能力に乏しいため、心筋梗塞などの障害後は線維化や左室リモデリングが進行するが、現在臨床で有効な心筋再生法や抗線維化治療はない。これに対して我々は、線維芽細胞に心筋特異的転写因子を導入して、心筋を直接作製する心筋リプログラミング法を開発した。さらに急性心筋梗塞モデルマウスに対して心筋リプログラミングにより、心筋再生と梗塞巣の縮小に成功している。これらの結果は、心筋リプログラミングが心筋再生と抗線維化作用の両方を有することを示すが、これまで慢性期心筋梗塞(心不全)に対する報告はない。また瘢痕化した梗塞巣に存在する特殊な心臓線維芽細胞(Matrifibrocyte)のリプログラミング効果も不明である。そこで本研究では慢性期心筋梗塞モデルマウスを用いて心筋リプログラミングの有効性を検証する。本年度は慢性期心筋梗塞モデルマウスに対する心筋リプログラミングを確認した。心筋リプログラミング遺伝子発現マウスに対して慢性心筋梗塞モデルを作製した。心筋梗塞作製1か月後にタモキシフェン投与により心筋リプログラミングを誘導し、梗塞3か月後に治療効果を解析した。これまでの実験で、心筋リプログラミングによる心筋再生、梗塞巣縮小、心機能改善をリネージトレーシング、病理、心エコー検査などで確認した。一方、心破裂や突然死などの有害事象は認めていない。
2: おおむね順調に進展している
実験も予定通り進行し、心筋リプログラミング関連の論文を発表した。
来年度はシングルセル解析により心臓構成細胞の遺伝子発現変化を明らかにし、心筋リプログラミングの作用機序を解明する予定である。心臓内には心筋や線維芽細胞以外にも、免疫細胞、血管内皮細胞など様々な間質細胞が存在し、心機能に影響を及ぼす。慢性期心筋梗塞の病態と心筋リプログラミングの作用機序を解明するため、心臓細胞のSingle-Cell RNA-seqを梗塞発症3か月後に行う。予備実験で、慢性期心筋梗塞モデルマウスでSingle-Cell RNA-seq解析を確立し、各心臓細胞群の同定と梗塞による変化を確認している(図5)。さらに心筋リプログラミングにより、心臓線維芽細胞やマクロファージが減少し、血管内皮細胞や周皮細胞などが増加することも見出している。またこの結果と一致して、Bulkのマイクロアレイ解析でも、心筋リプログラミングによる抗線維化、抗炎症、血管新生作用を確認している。今後さらに細胞間ネットワーク解析を用いて、各細胞間で作用するリガンドと受容体候補を同定して詳細な分子機序を解明する。
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