Wntは分子量約4万の分泌蛋白で、細胞表面の受容体に結合するリガンドとして機能する。Wntによって惹起される細胞内シグナルのうちβ-カテニンに依存しないPCP経路とCa2+経路をnon-canonical(非古典的)Wntシグナルと呼び、non-canonical Wntシグナルを活性化する主なリガンドとしてWnt5a、Wnt11が知られている。Wnt5a、Wnt11が心臓発生に必須であるとの報告はあるが、成人期の心臓におけるnon-canonical Wntシグナルの病態生理学的意義については明らかになっていない。申請者らは心筋特異的誘導型Wnt5aノックアウトマウスおよびWnt5aをノックダウンした培養心筋細胞を用いた研究から、①心筋細胞由来のWnt5aが心不全を増悪させること、および、②心筋細胞由来Wnt5aは転写共役因子Yap活性化を介して心筋メカノトランスダクション(機械的シグナル伝達)に関与することを見いだした。そこで本研究ではWnt5a-Yap axisによる心筋細胞メカノトランスダクション制御機構と、それが心不全を増悪させる機序を明らかにすることをその目的とした。 本年度は心筋細胞メカノトランスダクションにおける転写調節因子Yapの役割について検討した。培養心筋細胞に伸展刺激を加えた際にみられるBNP遺伝子の発現誘導はWnt5aをノックダウンすると減弱するが、その際にMST1/2の阻害剤であるXMU-MP-1を投与しYAPのリン酸化を阻害することによりYapの核移行を促進すると、減弱したBNP遺伝子発現誘導がrescueされ、さらにXMU-MP-1の効果はYapをノックダウンすることによりキャンセルされた。以上の結果はWnt5aがYapの核内移行を制御することにより心筋細胞のメカノトランスダクションに関与していることを示すものと考えられた。
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