研究課題
先行研究において、グルカゴンにより遺伝子発現が誘導されるメチル化酵素SETXの肝臓特異的欠損により、糖尿病モデルマウスの高血糖が肝糖新生系酵素遺伝子の発現抑制を介して改善すること、同時に肝がんも抑制されることが明らかになった。前者はアセチル化酵素GCN5の機能抑制を、後者は癌抑制遺伝子産物p53の活性化を介することが示唆された。本研究では、SETXが慢性的なグルカゴンシグナルの亢進により活性化され、肝糖新生を活性化すると共に、肝がん形成も促進する可能性を検証し、そうであれば分子メカニズムを明らかにすることを目指している。またSETXの欠損による肝がんの治療の可能性も検証する。本年度は、肝臓におけるSETXタンパクの発現調節機構を、3×FLAG-SETXホモノックイン(KI)マウスを用いて検討した。マウス肝では絶食時や肥満・糖尿病における発現増加を認めず、in vivoではグルカゴンよりも優位な発現調節因子の存在が示唆された。肝臓特異的SETX欠損により1型ならびに2型糖尿病モデルマウスの高血糖が改善し、その機序として肝糖新生の抑制が示唆された。またSETXによるメチル化がGCN5を介した糖新生に与える影響を肝細胞において非メチル化型変異体を用いて検証した。本メチル化はGCN5のヒストンアセチル化活性を高め、糖新生を促進することが示唆された。個体レベルにおける評価のため、同変異体のノックインマウスの作製にも着手した。SETXの肝がん促進作用に関しては、酵素活性欠損変異体を用いた検討から、SETXの腫瘍形成促進へのメチル化活性の必要性が示唆された。またSETXによるp53のメチル化が肝がんに与える影響を検討するため同部位の非メチル化型変異体のKIマウスの樹立も進めた。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に則し本年度は、①肝臓におけるSETXタンパクの発現調節機構、②SETXの強発現が糖新生・肝がん形成に及ぼす影響、③PKAによるリン酸化を介したSETXの機能調節機構、④GCN5の機能調節を介したSETXの肝糖新生制御機構、⑤がん抑制遺伝子産物p53を介したSETXの腫瘍形成促進機構、の解析を推進した。①に関しては、3×FLAG-SETXホモノックイン(KI)マウスを用いた検討から、マウス肝では絶食時や肥満・糖尿病における発現増加を認めず、in vivoではグルカゴンよりも優位な発現調節因子の存在が示唆された。②に関しては、酵素活性欠損変異体を用いたin vitro/in vivoの検討から、SETXの腫瘍形成促進へのメチル化活性の必要性を明らかにした。③に関しては、PKAによるリン酸化部位を変異させた非リン酸化型ならびに恒常的リン酸化型SETXのKIマウスを用いて、肝糖新生における本リン酸化の意義を検討した。PKAによるSETXのリン酸化はメチル化活性と相関し、糖新生系酵素の遺伝子発現と血糖の恒常性を維持するために不可欠であることが明らかになった。④に関しては、SETXによるメチル化がGCN5を介した糖新生に与える影響を、肝細胞において非メチル化型変異体を用いて検証した。本メチル化はGCN5のヒストンアセチル化活性を高め糖新生を促進することが示唆された。個体レベルにおける評価のため、同変異体のノックインマウスの作製にも着手した。⑤に関しては、酵素活性欠損変異体を用いた検討から、SETXの腫瘍形成促進へのメチル化活性の必要性を明らかにした。またSETXによるp53のメチル化が肝がんに与える影響を検討するため同部位の非メチル化型変異体のKIマウスの樹立も進めた。以上の進捗から、本研究は概ね順調に進展していると考える。
①PKAによるリン酸化を介したSETXの機能調節機構の解明:(非)リン酸化型SETX KIマウスを用いた検討から、PKAによるSETXのリン酸化は糖新生系酵素の遺伝子発現と血糖の恒常性維持に不可欠であることが明らかになった。今後、各マウスから単離した肝細胞において、PKAによるリン酸化、SETXの機能と糖新生系酵素遺伝子の転写誘導との直接的な関係性を明らかにする。また、SETXによる肝糖新生、肝がん形成の促進と慢性的なグルカゴンシグナルの亢進の因果関係を明らかにするために、肝臓特異的グルカゴン受容体欠損マウスを用いた検証も行う。②GCN5の機能調節を介したSETXの肝糖新生制御機構の解明:SETXによるメチル化部位として見いだしたリジン残基をアルギニンに置換した非メチル化型変異体GCN5KRを用いた初代培養肝細胞における検討から、糖新生系酵素遺伝子の転写誘導に際し、SETXによるGCN5のリン酸化は必須であり、リン酸化が活性を制御することが示唆された。個体レベルにおける評価のため、GCN5KR KIマウスを作製し、野生型との比較解析によるメチル化の意義を検討する。③がん抑制遺伝子産物p53を介したSETXの腫瘍形成促進機構の解明:これまでの検討からp53はSETXのメチル化基質であること、メチル化されない変異p53 (p53 KR)ではp53の転写活性が高まること、SETXによる肝がん促進作用の少なくとも一部はメチル化を介したp53の抑制である可能性が示唆された。今後はp53 KRホモKIマウスならびに対照マウスにおいて肝がんを誘導し、p53 KR変異による抗がん効果について検討する。④SETXを標的とした肝がん治療の可能性の検証:タモキシフェン誘導性に肝臓特異的にSETXを欠損するマウスに肝がんを誘導し、発育したがんを確認した時点でSETXの欠損を誘導し影響を検討する。
国立国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター 分子代謝制御研究部 https://drc.ncgm.go.jp/dc003/index.html
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