研究課題
移植医療の課題である免疫抑制剤の服用やドナー不足に対する有効な戦略の一つが再生医療との融合である。本研究では、免疫隔離細胞デバイスと皮下移植を両立させるための成功要因に関する学理を究明し、この両者を移植医療と再生医療を効果的に融合するための革新的基盤技術として確立する事を目指す。この目的を達成するために、本年度は昨年度の研究成果に基づき“不織布構造ゼラチン基材(GHNF)と脂肪組織由来幹細胞(ADSC)の組み合わせ、およびGHNFと血管新生ペプチド(Angiogenic Peptide: AGP)の組み合わせによる移植前処置法が皮下新生血管構築におよぼす影響の検証”を試みた。具体的には、GHNF/ADSC、GHNF/AGPを組み合わせる条件下において、実際の皮下組織に誘導される新生血管の量を免疫組織化学染色(vWF染色)、およびレクチン標識共焦点顕微鏡システムにて半定量化し、無処置群やGHNF単独群と比較することで評価を試みた。GHNFとADSCの組み合わせに関しては、vWF免疫組織化学染色およびレクチン標識共焦点顕微鏡システムのいずれにおいても、無処置群やGHNF単独群に比し有意に新生血管量が増加することが明らかとなった。また興味深いことに、GHNFとADSCの組み合わせにより誘導された皮下の新生血管は、一時的なボーラス効果ではなく膵島移植後も長期に渡って移植膵島に残存し、グラフトの長期生着に大きく寄与することを確認することができた。血管新生誘導因子についても解析を実施したところ、GHNFとADSCを組み合わせることにより、VEGFやEGFなどの一部の因子はGHNF単独群よりも有意に遺伝子発現が上昇することが判明した。GHNFとAGPの組み合わせに関しても新生血管を効果的に増加させる傾向を確認しているが、現在半定量的解析およびその機序解明に関する解析を実施中である。
2: おおむね順調に進展している
本年度は予定していたGHNFとADSCの組み合わせによる移植前処置法が皮下新生血管構築におよぼす影響の検証をしっかり実施することができ、さらにもう一歩踏み込んでその作用機序解明や実際の皮下膵島移植効果に関しても確認することができた。これらの研究内容をまとめて国際学術誌であるCell Transplantationへ投稿し、アクセプトに至った(in press状態)。一方、GHNFとAGPの組み合わせに関しては、GHNFとADSCの組み合わせの研究が想定以上に進行したためやや遅れており、予定していた年度内に全解析を終えることができなかったため、総合的観点から本年度の研究計画は"おおむね順調に進展している"と判断した。
本年度の研究により、GHNFとADSCの組み合わせの有用性は十分に立証することができたため、2024年度はGHNFとAGPの組み合わせに関して、新生血管構築効果やその機序、さらに実際の皮下膵島移植成績へ及ぼす影響に関して詳細に解析を行い、両手法の比較検証を実施していく予定である。当初予定していた通り、2024年度は実際の糖尿病動物モデルを使用し上記移植実験を実施していく予定である。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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