研究課題
小児肝腫瘍,特に肝芽腫は、病期や年齢因子が必ずしも予後と一致せず、悪性度や治療標的となる分子マーカーの同定が喫緊の課題である。多施設共同臨床試験(JPLT-2)症例のゲノム解析から、エンハンサー領域の脱メチル化によるWntシグナルの活性化とテロメラーゼ酵素TERTのプロモーター変異が予後不良例に生じていることが判明した。そこで、これらが治療層別の分子マーカーになりうるかを検証し、さらに次期試験へ導入して臨床実装を行うことを目的として、以下の解析を行った1)メチル化解析による分子マーカーの同定:脱メチル化が生じているエンハンサー部位の解析から、メチル化が悪性度と関連している遺伝子(DLX6ASなど)が見いだされ、そのために発現制御されている遺伝子(ASCL2、ADAM2など)の発現を検討し、5つのメチル化遺伝子がバイオマーカーとして有用と考えられた。2)低酸素状況によるがん化機序の解明:肝芽腫に特異的に誘導されるADAM2遺伝子の誘導は低酸素状態でのADAM2分解に関与するIGFR2 mRNAのメチル化であることをメチル化特異的RT-PCRで検証し、同時に、細胞株では低酸素状態でのHIF1誘導と、メチル化による細胞増殖亢進を認めた。3)テロメアバイオロジ―の検討と検査法の確立:悪性度の高い肝芽腫にみられるテロメア短縮をテロメアプローブを用いたFISHで、CIN(染色体不安定性)解析をオンコスキャンで検討したところ、CINのある患者は予後不良で、テロメアプローブを用いたTERTプロモターホットスポット2か所の変異を検出するデジタルPCRシステムを開発した。1)-3)で有用とされたマーカーの検出方法として血中の遊離DNAを用いた遺伝子変異検索、メチル化特異的PCR法によるメチル化検索システムを含めて確立して、臨床応用可能なシステムとしての検証を開始した。
3: やや遅れている
テロメアFISH解析用のプローブが受注発注であり、コロナ禍で製造と入手が遅延したために、テロメア、テロメラーゼ解析が遅延し、結果的にやや遅れているが、次第に結果がでており、取り戻す予定である。
今後は、以下の方法で研究を推進する。1)メチル化解析による分子マーカーの同定:JPLT-3の肝腫瘍検体を用いて、メチル化が生じているエンハンサー部位のメチル化について、前年度と同様にナノポアシークエンスおよびバイサルフェイトシークエンスにて検討する。その結果、メチル化が悪性度や予後と関連している遺伝子(DLX6ASなど)や、予後と発現が関連している遺伝子をdigital PCRに検討して、臨床応用可能なマーカーを探索する2)低酸素状況によるがん化機序の解明:低酸素下で誘導されるRNAのメチル化によって制御される遺伝子群を明らかにし、肝芽腫の発症・進展に関わる機序を解明する。また、細胞株を用いて低酸素状態でのメチル化の変化、メチル化阻害剤投与による細胞増殖の変化を検討し、診断、治療法への応用を検討する。3)テロメアバイオロジ―の検討と検査法の確立:テロメラーゼ活性やTERT変異の臨床検体での検討を継続する。また、高悪性度の肝芽腫特異的なメチル化マーカーや高発現遺伝子(ASCL2など)マーカーの検出方法を検討を継続する。また、βカテニン変異の2色プローブを用いたデジタルPCR法による検出法にて、診断のみならず、治療効果や再発をモニターする分子マーカーとしても有用性を検討する。上記に加えて、TERTプロモーター変異に加えて、悪性度に関与するメチル化遺伝子や発現変化する遺伝子を明らかにし、次期臨床試験JPLT-5や次期国際共同試験PHITT2 に導入して検証すべき分子マーカーを選定する。
本研究は,日本小児がん研究グループ(JCCG)と連携して行っており、成果の一部を上記のwebページに公開している。
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