研究課題/領域番号 |
22H03137
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
八木 洋 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (20327547)
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研究分担者 |
松本 一宏 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (80366153)
足達 俊吾 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (90783803)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 細胞外マトリックス / 腎臓再生 / 腎不全 / 抗線維化 / 抗炎症 |
研究実績の概要 |
本研究では、生体由来の細胞外マトリックスから成る臓器骨格が、組織再生の三要素に当たる「足場」/「生理活性物質」として重要な役割を果たし、臓器修復/再生を誘導する効果とメカニズムを、本来体内で修復しないとされる腎臓を対象として、骨格内部に起こる腎小体を含む微細連続構造・機能の修復過程に着目し、Single Cell解析・マイクロ流体デバイスを用いた詳細な細胞動態解析と、臨床応用を見据えた慢性腎障害モデルブタを駆使して明らかにする。研究分担者として大動物の腎障害モデルを泌尿器科医の松本が、Single Cell解析・マイクロ流体デバイス解析を産総研の足達が、それぞれ高い専門性を持って担当し、長く培ってきた脱細胞化骨格技術と知見を最大限に生かし、未だ明らかでない体内における腎臓修復/再生メカニズムの解明と、それに裏打ちされた新たな腎障害治療法の開発を目指すことを目的とした。当該年度の成果として、動物体内で腎臓骨格内部に遊走した細胞を抽出しSingle Cell解析を行うことで、前駆細胞を含め抗線維化、抗炎症に関わる細胞群が経時的に遊走し機能すること、また血管内皮細胞・腎尿細管上皮細胞を用いた実験で、72時間の経過観察を行って立体的管腔構造の形成とその評価を実証した。さらに、片腎の1/3を切除したブタ腎障害モデルを用いて、腎臓骨格を切断面に縫合接着させ、CCrやGFRなど生化学的評価、ダイナミック造影CT、ドップラーエコー、C アーム造影、病理組織学的評価を実施し、骨格の機能を臨床病理学的に示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞の生着・機能発現に適した環境を提供するのは再生医療の三大要素にも挙げられる足場材の役割であり、上記の各種ストレスや血流不足を補うほか、内部での効率的な細胞移動や体内で安定的に生着し自然に自己組織化することも求められる。当該年度の成果によって、動物臓器・組織を脱細胞化することで得られる「脱細胞化組織」が優れた成形性を維持しつつ足場としての機能を維持することを見出した。特に優れた機能的特徴として、1)各種細胞・オルガノイドの培養足場として有効に働くほか、2)血管内皮細胞を中心に優れた細胞遊走・浸潤機能を有し、3)また動物体内に埋植したのち速やかに自己組織化する高い体内親和性を有すること、4)左記の結果として局所の炎症・線維化を軽減する性質を有すること、などを明らかにした。これらの成果のうちラットにおいて同脱細胞化材料が示す腎臓損傷部位の修復促進効果を論文発表するに至った。
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今後の研究の推進方策 |
現在30万人を超える透析患者の増加は医療費高騰など社会問題化しており、主原因となっている糖尿病性腎症は最大の課題である。糖尿病性腎症は細胞障害に先んじて血管障害による細胞外環境の線維化が主病態であることがわかっており、正常の細胞外骨格の介入が、腎症の進行を遅らせることが期待される。2年度、3年度では腎臓に対する外科的部分切除に対する効果を見極めた上で、最終的に慢性糖尿病性腎症を対象とした治療効果とその体内メカニズムを示すために、遺伝的に腎障害が進行する糖尿病性腎障害モデルブタに対して、液状化した腎臓骨格を穿刺注入し、線維化の無い新鮮な細胞外環境/スペースを増大させ、細胞遊走/浸潤の誘導と腎障害の改善効果を明らかにする。なお、腎臓骨格の液状化と細胞遊走機能は、初年度に実施したマイクロ流体デバイスによる実験で実証済みである。
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