研究課題/領域番号 |
22H03146
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 太郎 大阪大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (40368303)
|
研究分担者 |
石井 秀始 大阪大学, 大学院医学系研究科, 特任教授(常勤) (10280736)
荒尾 泰子 大阪大学, 大学院医学系研究科, 特任研究員 (70962736)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 膵がん / メチオニン / 代謝 |
研究実績の概要 |
これまでの私たちを含めた内外の研究成果で、メチオニンはゲノムやRNA、ヒストン、ポリアミンなどのメチル化修飾のメチル基ドナーとなる栄養素であり、がん細胞の亢進したメチル基転移反応を支えていることが明らかとなっている。しかし、膵がんにおけるメチオニン制限の効果や、膵がん微細環境下でどのようにがん細胞と間質細胞がメチオニンを奪い合わずに共存しているのかは不明である。本研究は膵がん微細環境におけるメチオニン代謝の総体を明らかにし、メチオーム改変による治療効果の検証およびメチオーム中の治療標的の探索することを目指して研究を実施した。メチオニン代謝やOne Carbon代謝研究から、がん細胞細胞、がん幹細胞細胞、間質細胞に焦点を当てて、トランスクリプトーム解析を進め、特にメタボロームをRNAseqから予測すること進めた。これらの解決のために質量分析ベースの解析も投入した。大阪大学消化器外科と協働し以下の項目に焦点を当てて研究した。まず膵がん患者検体のメチオーム評価として、新鮮な材料を用いいてイメージング質量分析法で代謝産物の空間的な分布を明らかにし、生物的な意義を検討した。RNAseqのデータと代謝酵素の質量分析による解析を付き合わせて検討した。次に膵がん細胞、間質細胞におけるメチオニン欠乏の効果としては、in vivoでの重要性を明らかにするために、培養細胞、および個体レベルの膵がんを同系統に移植した担がんマウスの研究により膵がん細胞、間質細胞におけるメチオニン欠乏の効果の生物的な意義を検討した。得られた標的分子に対する創薬を進めるために、知財の整備を行った。新たな大学院生に加え、研究員の参加も得て、本研究の円滑な進捗を図った。大阪大学では本年度より動物実験施設をリニューアルしたので、本研究の実施においてもがんと代謝に関わる前臨床試験を滞りなく進めることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【膵がん患者検体のメチオーム評価】 膵がん患者で変動している代謝パスウェイを直接的に解析されている例は少なく、従来は特定の代謝パスウェイに属するゲノム変異や遺伝子発現レベルで間接的に推定してきた。本研究では膵がん患者末梢血/切除検体の質量分析によりメチオニンやSAMなどのOne Carbon代謝に関連する酵素および代謝産物を直接計測した。代謝パスウェイレベルでの活性をスコア化し、臨床背景との統計解析を示した。代謝パスウェイに変動が見られた患者に至っては質量分析イメージングを行い、がん微細環境下のメチオニンやSAMなど分子分布を測定した。 【膵がん細胞、間質細胞におけるメチオニン欠乏の効果】 アミノ酸トランスポーターは複数のアミノ酸の輸送を担っているため、トランスポーターの阻害はオフターゲットを生じる。膵がん細胞および間質細胞でのメチオニン制限の影響を見るために、メチオニン減少培地を用いた培養試験を行った。メチオニン要求度が細胞株によって異なることも予想されるため、複数の膵癌細胞株を用いた。間質細胞は複数患者のがん切除検体から酵素処理により単離して培養実験に用いた。メチオニン減少培地で数日間培養を行い、細胞増殖/生存への影響を評価すると共に膵がん細胞に関しては抗がん剤の併用効果についても検証を行った。また、興味深い群を対象にATAC-seqによるエピゲノム解析およびRNAseqによるトランスクリプトーム解析を行い、メチオニン制限効果の機構解明に繋げた。メチオニン代謝パスウェイの代謝物は主に質量分析によるメタボローム解析を行った。膵がん細胞、間質細胞をC13-メチオニン代替培地で1-3日間培養し、細胞種によるメチル化反応の差を計測した。さらに同位体標識後に通常元素培地に戻すことでホモシステインからの再合成経路の違いも検証している。
|
今後の研究の推進方策 |
膵がん微細環境におけるメチオームの総体を明らかにし、がん微細環境下でのメチオニンデリバリーシステムの制御によるがん抑制方法を開発する。具体的には以下のサブテーマに分けて遂行する。
【メチオニン欠乏環境下での膵がん細胞、間質細胞の細胞間相互作用】膵がん微細環境下でのがん細胞と間質細胞の関係がメチオニン代謝に及ぼす影響を検証する。細胞間接着ありなし両方の共培養系を使用して、メチオニン制限培養による細胞生存/増殖に及ぼす影響を評価し、興味深い条件についてはエピゲノム解析を行ってがん関連遺伝子の制御関係を明らかにする。間質細胞を同位体元素メチオニンで標識したのちに共培養し、膵がん細胞の質量分析を行うことで細胞質の物質交換を観察する。細胞間接着の有無で分けた共培養系を比較することでエクソソームや細胞膜ナノチューブなどのメカニズム解明の足掛けとし、その制御方法の開発にも取り組む。 【メチオニン制限食によるマウス発がんモデルのがん抑制作用とその機構解明】遺伝性膵がん発生マウスモデルにメチオニン制限食を与え、発がんへの影響を確認する。また、がん進行/がん抑制作用を評価するため、CTにより発がんを確認した後にメチオニン制限食に切り替えてがん進行を観察する他、抗がん剤併用による奏功率改善を検証する。これら質量分析をベースとしたオミクス解析は十分なinput量が必要なために膵がん組織全体での解析となる。Single cell transcriptome解析からリガンドレセプターデータベースを駆使した細胞間相互作用推定を行う中でメチオニン代謝に纏わる治療標的を見出す。得られた結果を基に、薬剤データベース (LINCS L1000)などから介入可能因子/薬剤を探索し、その効果およびメチオニン制限食との併用効果をin vivoモデルを用いて検証する。
|