研究課題
生体は外来性の病原体や内因性の異質タンパク質に対して、細胞性免疫あるいは液性免疫を獲得してその恒常性を維持する。最近、病原体に対して獲得された既存のメモリーT細胞が、ウイルス製剤によるがん免疫療法の抗腫瘍活性に大きな影響を与えることが報告されている。われわれは、テロメラーゼ依存性に増殖して腫瘍溶解を誘導する遺伝子組換えアデノウイルスOBP-301(Telomelysin)に、多機能がん抑制遺伝子であるp53を搭載した次世代型武装化ウイルス製剤 OBP-702の臨床開発を進めている。p53はヒト悪性腫瘍で最も高頻度に異常が認められるがん抑制遺伝子であり、変異型p53タンパク質はoncogenicに作用すると同時に、半減期が延長して免疫組織学的に検出可能となり、がん特異的抗原として提示される。今年度は、前年度に、マウス大腿骨から単離した骨髄細胞をIL-4とGM-CSFで5日間刺激した後に正常型p53発現非増殖性アデノウイルスAd-p53で2日間処理したAd-p53-DCが、DC成熟マーカー(CD86、MHC-II)を発現していることをフローサイトメトリーで確認した。また、Ad-p53-DCを皮下に4回接種した前感作マウスとコントロールの未接種マウスを用いて、マウス大腸癌細胞株CT26(p53正常型)の皮下腫瘍モデルを作成し、OBP-702を2回腫瘍内投与して1)無治療群、2)ワクチン治療群、3)OBP-702治療群、4)併用治療群の4群で腫瘍増殖を比較検討したところ、併用治療群で有意な腫瘍増殖抑制効果が認められた。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、「p53タンパク質やアデノウイルス5型に対する既存の細胞性免疫あるいは液性免疫が、次世代型p53遺伝子発現武装化アデノウイルス製剤 OBP-702による消化器がんへの抗腫瘍活性を増強するかどうかを検証し、その前感作免疫活性のレベルと抗腫瘍効果の強度が相関するかどうかを明らかにすることでバイオマーカーとしての有用性を検討し、多様な生物活性を発揮する遺伝子改変ウイルス製剤としてのOBP-702の創薬基盤を確立すること」を目的としているが、Ad-p53-DCの併用によりOBP-702の治療効果の増強が認められることが確認できたので、2年目としては順調に進展しており上記の区分を選択した。
1)Ad-p53-DCで前感作したマウスのCD8陽性脾細胞の抗腫瘍活性の検証:Ad-p53-DCで前感作したマウスから採取した脾細胞を低用量のIL-2で刺激し、マウス大腸癌細胞株CT26と共培養した後にCD45/CD8陽性細胞の中のIFN-γ陽性あるいはGranzyme B陽性細胞の比率をフローサイトメトリーで検討する。2)Ad-p53-DCで前感作したマウスの腫瘍免疫微小環境の解析:Ad-p53-DCで前感作したマウス背部にマウス大腸癌細胞株CT26を移植後21日目に、マウスを犠牲死させ、腫瘍局所へのCD45陽性血球系細胞、CD8陽性リンパ球、CD11c陽性樹状細胞、F4/80陽性マクロファージなどの浸潤割合を比較検討する。また、CD8陽性細胞に関しては免疫組織染色にて腫瘍内分布を確認する。さらに、CD11c、CD163(M2マクロファージマーカー)などでも染色して比較検討する。3)Ad-p53-DCが認識するp53抗原ペプチドの同定:Ad-p53-DCで前感作したマウスの腫瘍を採取し、MHC-I、MHC-IIを標的として免疫沈降を行い、固相抽出、限外濾過した後に質量分析法(Mass Spectrometry: MS)にて結合ペプチド同定を試みる。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 2件)
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