研究実績の概要 |
2022年度は,新たにICRマウスを用いて熱中症モデルのプロトコルの確立をおこなった.理由としては, C57BL6Jは様々なKOマウスがあり,今後の実験がしやすい動物である.しかし,C57BL6Jは個体が約20-30gと小さく, 採血による液性シグナルを検討するには大量の動物が必要となる.一方m ICRマウスは個体が30-40gとC57BL6Jに比較して大きい. 採血量に関しても, 最大1.5mlの採血が可能で, 採血検体を用いることでELISAの多くの項目の解析が可能である. 動物愛護の観点からも,2系統で実験をおこなうことが今後の実験において必要であると考えた. COVID-19の診療が多忙であった前半はなかなか実験が進まず苦労したが, やや落ち着いた後半から条件検討を繰り返しおこなった. 結果,ICRマウスはC57BL6Jと比較して,熱感受性が高い.このため, 同じ暑熱暴露条件ではほぼ全滅してしまった. 湿度は同じにして, 暑熱暴露条件の温度を下げ, 複数のプロトコルを用いて検討をおこなった. 結果, 3時間かけておこなっている余熱の条件を一定ではなく, 40℃→41℃→38℃と段階的に調節することで, 熱中症チャンバー内の温度が安定し, 結果が得られるようになった.この条件下で前回と同じ生存率70-80%で, 深部体温も41℃とほぼ同じ条件を達成できた. 熱中症にともなう臓器傷害についても検討したところ,中枢神経傷害, 肝臓, 腎機能障害, 凝固異常が暑熱暴露後48時間後に著明に確認できた.熱中症により虚血, 全身性炎症症候群(SIRS)が惹起され多臓器障害をきたいしていると考えた.また, 血清を用いてNeurofilamentを測定したところ, 熱中症から1週間後に有意に上昇しており, C57BL6Jモデルと同様に熱中症1週間後でも神経炎症が続いていることが示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験結果から,血清が数時間で炎症のピークを迎えるのと異なり,中枢神経では熱中症後1週間が炎症のピークである.この時期の神経炎症をいかに抑制するかが, 晩期に出現する神経傷害を抑制できるかにかかっていると考えている.また, 1週間後も炎症が持続するケースでは長期的に認知症や神経傷害の可能性もあると考えている. 2023年度は海外留学でスロバキアの神経免疫研究所に拠点を移している.同研究所は,アルツハイマー病・パーキンソン病などにみられるTau蛋白の研究を中心におこなっている.2023年度は,熱中症後1週間にどこで中枢神経の炎症がおきているのか,また,この炎症の持続が長期的なtau蛋白の築盛と関連があるかについてマウス熱中症モデルをつかい検討する.まずは,スロバキアに持参したサンプルでWestern blottingなどによるtau蛋白,Neurofilamentの解析をおこなう.並行して, マウス熱中症モデルを同研究所で確立し,得られてサンプルを用いて熱中症後1週間の炎症を抑制することで神経傷害マーカーが改善するかについて検討する.
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