研究実績の概要 |
2023年度は国外留学にともない研究拠点をスロバキアに移して研究をおこなった.これまでおこなってきた組織学的検討では,熱中症後の小脳では1週間後に脱髄がピークを迎え, その後時間の経過に伴い再髄鞘化がおこっていくことがわかっている. 熱中症と同様に脱髄をきたす疾患として,多発性硬化症(Multiple sclerosis, MS)が知られている.MSは白人に多く, 時間的・空間的多発する.以前は, 病勢の把握に頭部MRIが繰り返しおこなわれてきた. しかし, 近年, EU圏では,血漿中の軽鎖ニューロフィラメント(LNF)が診断・病勢の把握に広く用いらている.本留学では,まず, 熱中症後にマウスの血漿中のLNFがどのように推移するかについて検討をおこなった. 結果,血漿中のLNFは熱中症24時間後から上昇しはじめ,1週間後では対照群と比較して有意に上昇していた.また, 再髄鞘化がはじまる3週では1週に比べて, LNFが有意に低下し, 小脳の脱髄の程度と血漿中NFMが相関していることが示唆された. この他,持参した血漿・組織のサンプルを用いて, 熱中症後の蛋白の性質の変化を検討した. 具体的には, 対照群(熱中症なし), 48時間, 1週間, 3週間, 5週間のマウスの血漿,小脳のサンプルを用いてLC-MSを用いたプロテオミックス解析をおこなった. 血漿ではいずれの時間帯でも対照群と比較して有意な変化は認めなかった. 血漿ではより早期(直後,6時間,24時間)に変化している可能性を考え今後実験をすすめる予定である. 一方, 熱中症後の小脳の蛋白組成は48時間から変化し始め,1週間でもっとも大きく変化することがわかった.また, 時間の経過に伴い, 徐々に回復することが判明した. 今後さらに解析をすすめ, 熱中症後にどの蛋白の発現が大きく変化するかについて検討する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
2024年3月に帰国した.留学中に同研究所で作成した熱中症のサンプルについては同研究室のAndre Koback博士により引き続き解析をおこなう予定である.同研究所では, C57BL/6マウスとICRマウスの2系統でマウス熱中症モデルの確立をおこなった.興味深いことに, 週齢, 熱中症の暑熱暴露条件でも, 熱中症の重症度に大きな差があることがわかった. ヒトにおいても,人種による熱感受性が大きくことなることが知られている.一般的に, あまり暑くない環境に住む白人にくらべ,比較的暖かいもしくは暑い地域に暮らすアジア人・黒人は暑さに強いことが知られている.しかし, 暑さへの感受性がなぜ異なるかについてはまったくわかっていない. 留学中に同週齢のC57BL6マウス, ICRを同じ暑熱暴露チャンバーにいれ, 熱中症にしたサンプルを作成した. これらの, 血漿・皮質・小脳を用いて遺伝学的解析をおこない, 暑さへの感受性の遺伝子を同定する. また, ヒトや動物では暑い環境に時間の経過とともに順化することが報告されている. 今回作成したサンプルを用いて, 暑さの順化に関する遺伝子についても同定に努める. 熱中症後には虚血・凝固異常が組織傷害について重要な役割をになっている. 2023年度に購入した毛細血管を撮影可能なカメラを用いて, 熱中症後の毛細血管の血栓・血流速度と虚血にともなう組織損傷について検討をおこなう. さらに, 血漿中の可溶性フィブリンモノマー複合体をELISAで同定し, 熱中症後いつから血栓が形成されるのかについても検討をおこなっていく.
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