研究課題/領域番号 |
22H03184
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
前澤 聡 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (90566960)
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研究分担者 |
Bagarinao E. 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 准教授 (00443218)
臼井 直敬 独立行政法人国立病院機構(静岡・てんかん神経医療センター臨床研究部), その他部局等, その他 (00470162)
齋藤 竜太 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (10400243)
藤原 幸一 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (10642514)
坪井 崇 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (50772266)
夏目 淳 名古屋大学, 医学系研究科, 特任教授 (60422771)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | コネクトーム / 定位機能外科手術 / 視床 / てんかん / 健常者コホート / 本態性振戦 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、定位的機能外科治療の標的部位選択やモダリティの最適化のための非侵襲的術前評価アルゴリズムを確立し、これらを基盤とした新規なコネクトーム基盤型定位機能外科手術の確立を図ることである。2022年度は、そのphase1研究にあたる「患者の病態に即した運動/精神/高次認知機能の神経回路的変容を包括的に評価するアルゴリズムを開発」を実施した。視床に注目して、視床亜核の機能的連絡を自開発のfunctional connectivity overlap ratio (FCOR)で評価し、病態ごとの視床の役割を理解し、これを元に視床ニューロモデュレーション手術のシミュレーションを行う事ができれば、てんかんに対する新規治療の開発につながる。てんかん患者54例における視床前核からのFCOR解析を実施し、視床前核(ANT核)から意識に関わるネットワークへの結合性は多くは低下しているが、側頭葉てんかんではDMNで逆に増加している事が分かった。意識減損発作と意識システムであるDMNの関連が示唆された。また、健常者120名のデータベースを活用して、視床におけるFCORの加齢変化を評価し、視床前核は意識に関わるネットワークとの結合が強く、一方で他のネットワークとの結合性は50代以降二次曲線的に強まり、これは高齢者群では認知機能が低いほど、結合性が高くなる事が分かった。これらは脱分化と機能的代償を反映している可能性がある。また本態性振戦(ET)患者15名の術前術後の縦断的データセットを活用して、視床に注目したFCOR解析を行った。ETでは術前運動感覚ネットワーク、視覚ネットワークが過剰な結合性にて拡がっており、これが術後是正される事、更にDMN、ECNの様な内因性ネットワークが術後強くなる症例があり、これが振戦抑制と負の相関を示すことを新たな知見として得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FCORを使った視床亜核の特徴の抽出が、健常者及びてんかん、本態性振戦の疾患群にて可能である事が分かり、またその変化は疾患の病型、病期に特異的である事が示された。特に患者に非侵襲的かつ負担の少ない安静時機能的MRIを使ったFCOR解析が、ボクセル単位の関心領域の各ネットワークに対する結合性の度合いを示し、小さな構造の中で様々な機能的差異を有する視床亜核の評価に適している事、実際の臨床のパラメータ(例えばてんかん病型、本態性振戦の振戦の程度、術前術後変化)と相関する事が示された事は、大きな成果である。この成果の一部は、本態性振戦に対するMRgFUS治療後のネットワーク変化(JNS,2022) 難治性振戦(Holmes振戦)に対するDBSの新規ターゲット(Frontiers, 2022) 定位的頭蓋内脳葉(SEEG)のてんかん外科臨床におけるインパクトと課題(NMC2023)の研究論文として報告した。また本態性振戦のFCOR評価論文は現在レビュー中であり、てんかん、及び健常者に関してのFCOR論文は現在作成中である。 この様なFCOR解析には、高スペックの解析ワークステーションを中心とした解析環境の整備が必要であるが、これに関しては今年度の予算でほぼ完了した状況である。解析の中心となるのは安静時機能的MRI画像のデータベースであるが、現在までに各年齢層の健常者コホートデータベースは1000名を超えて充実している。てんかん患者に関しては60名程度であり、本態性振戦患者においても30名程度であり、先述のアルゴリズム確立のための研究を実施するには十分である。 この様に本研究の第一目標である、phase1研究にあたる「患者の病態に即した運動/精神/高次認知機能の神経回路的変容を包括的に評価するアルゴリズムを開発」に関して、研究第一年目としては順調に進捗している状況と考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究目的を達成する為に、phase 1(基盤相)とphase2(臨床相)に大別する研究を実施するが、今年度は昨年度に引き続いてphase1が中心となる。 Phase 1-1. 脳神経回路データの収集と拡充:昨年度に引き続いて、機能的外科手術の術前の脳神経回路データを収集する。焦点性てんかん、本態性振戦、パーキンソン等の疾患データについて、それぞれ年間20例の増加を目指す。EEG-fMRI, MEGデータ、dDTIを入手して多角的コネクトーム評価が出来るようにする。 Phase 1-2. 前年度に引き続き、phase1で得られたデータを使ってアルゴリズム開発を進める。FCORを使い、視床に注目して進める。てんかんではVA核はPapez回路の一部であり辺縁系発作と関連し、CM核は基底核や前頭葉に広く連絡するため全般性発作に関連するという仮説がある。前頭葉てんかんと側頭葉てんかんの様なてんかん病型の違いや、全般性てんかんと焦点性てんかんとの違いに着目して検討して、これらを基盤としたアルゴリズムを作成する。 また今後は、特に定位的頭蓋内脳波(SEEG)とも関連させて、発作起始、伝播領域、症状発現域の脳波変化と各領域でのFCORでの特徴を抽出して、発作焦点に特異的なFCOR指標の特徴を探る。PD、ETでは候補となる標的構造と不随意運動の改善、高次脳機能や精神症状の術後変化との相関を明らかにする。特に振戦のある症例ではET、PD、dystonic tremorの異なる神経回路を明らかにする。 Phase 2(臨床相):基盤相を進める一方で、患者の臨床データをまとめ、臨床データと基盤相データの整合性を調べる。てんかんに対する視床定位手術が2023年度内に厚労省で認可される可能性もあり、SEEGの視床からの記録の倫理申請も進める。 以上、これらの段階的な研究成果を学会及び論文で報告する。
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