研究課題
我々が確立したin vitroでの瘢痕アストロサイトに対し、細胞接着を解除することで可塑性が得られるかを検討したが、N-カドヘリン抗体やEDTAを用いても可塑性は得られなかった。細胞接着の阻害や介助によっても可塑性は得られなかったことに加えて、瘢痕アストロサイトは一見多核細胞体のようであったため、細胞融合により安定な構造物となっている可能性が考えられ、GFPマウスとtdTomatoマウス由来の二色アストロサイトから瘢痕アストロサイトを誘導した。しかしながら、細胞融合、すなわち黄色を呈した瘢痕アストロサイトは存在せず、全て緑と赤色のアストロサイトが細胞接着により形成されていた。このことは、二色のアストロサイトをマウス脊髄損傷モデルに移植した実験を行い、in vivoにおいても細胞融合ではなく、細胞接着によりグリア瘢痕が形成されることを確認した。また、in vitroで誘導した瘢痕アストロサイトを正常脊髄に移植したところ、生着部周囲のアストロサイトがN-カドヘリンを発現して瘢痕アストロサイト様細胞へと形質転換していることを見出した。実際に生着周囲部のアストロサイトをレーザーマイクロダイセクションで選択的に採取し、瘢痕アストロサイトのマーカー遺伝子が上昇していることを明らかにした。この結果は、能動的な瘢痕維持機構の存在を示唆しており、損傷慢性期にまでわたってグリア瘢痕が強固な構造物として維持される一因であると考えられた。一方、ダイレクトリプログラミムによる瘢痕アストロサイトの可塑性は可能であったが、誘導効率が低く、現段階では現実的な治療ストラテジーとは考えにくいと判断した。
2: おおむね順調に進展している
グリア瘢痕の形成メカニズムならびに細胞融合ではなくあくまで細胞接着により形成されることを解明した。ダイレクトリプログラムにより可塑性は得られたが誘導効率に問題があることが判明した。また長期に渡る瘢痕維持メカニズムの一端を明らかにした。
可塑性を利用したグリア瘢痕の修飾ではなく、今後は一旦移植細胞を瘢痕部に取り込ませた後にTet-Onシステムにより形質転換を誘導しグリア瘢痕のmanipulationを試みる。また、外科的な切除による再瘢痕化の検討や、繊維性瘢痕の軸索伸長阻害効果なども検討する。
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