研究課題
これまで、脊髄損傷慢性期におけるグリア瘢痕の維持機構については殆ど明らかになっていなかったが、我々は瘢痕アストロサイト自身の軸索進展阻害因子の発現は徐々に減少するものの、重要な分化転写因子であるSox9の発現は上昇していることを明らかにした。瘢痕アストロサイトの可塑性は得られなかったものの、移植実験により瘢痕アストロサイト自身が周囲の正常アストロサイトの形態変化を誘導し、瘢痕維持機構の一端を担っていることを明らかにした (Exp Neurol, 2023)。慢性期に於ける抗β1インテグリン抗体投与は、既存の瘢痕の可塑性を誘導することは出来なかったが、新規瘢痕形成を抑制したことから、慢性期の瘢痕においてもダイナミックな維持機構が続いていることが示唆された (Exp Neurol, 2023)。また、瘢痕形成過程に於ける反応性アストロサイトの移動機構に関しては、自身のP2Y1受容体を介したマクロファージから分泌されるATPが重要であることを明らかにした (Sci Repo, 2023)。
2: おおむね順調に進展している
遺伝子の強制発現によるアストロサイトの可塑性を試みたが、諸家の報告と同様その効率は極めて低く、現実的な治療に繋がるとは考え難かった。損傷急性期に細胞移植を行い、瘢痕形成期に一旦移植細胞をグリア瘢痕に取り込ませたのちに形質転換を誘導するmanipulationも試みたが、瘢痕の一部のみにしか変化が認められず、わずかな軸索経路のre-arrangementは確認可能なものの運動機能に影響を及ぼすような個体としての神経回路の再編成は得られていない。ただ、慢性期の脊髄損傷であっても、グリア瘢痕の修飾により脊髄の神経回路に可塑性が認められたことは意義深い知見と考えている。
実際の慢性期治療に介入するためにはグリア瘢痕の外科的切除も選択肢の一つと考えている。瘢痕部をラベルし選択的に除去する方法やニードルバイオプシーの要領で瘢痕部をpenetratingする方法などを試みている。損傷部を跨いだ新規神経回路が確認されれば、慢性期治療のハードルを下げることに繋がるのではないかと考えている。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件)
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