研究課題/領域番号 |
22H03217
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田中 伸之 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (60445244)
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研究分担者 |
大家 基嗣 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (00213885)
小坂 威雄 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (30445407)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 腫瘍内不均一性 / 多様性解析 / がん免疫ゲノミクス / 尿路上皮がん / リキッドバイオプシー |
研究実績の概要 |
腫瘍組織内で、遺伝学的情報と空間トランスクリプトームを細胞レベルで追跡・融合することは、一人の人間の臓器間および臓器内に存在する複雑なクローン競合を明らかにし、例えば対象となるサブクローンに固有のがんプロファイルやサブクローン毎に異なる免疫環境に応じた免疫療法アプローチを可能にする。我々は、空間的トランスクリプトーム上で標的サブクローンを同定する独自のアルゴリズムから、微小環境の悪性変化に関与するドライバー変異や抑制性の腫瘍免疫を明らかにし、先端のリキッドバイオプシーを用いて体外的に尿路上皮がん免疫ゲノミクスを予測するプラットフォーム構築を目指している。 2022年度は、Lasso 法を派生させたアルゴリズム構築行い、Visium 遺伝子発現解析上で、標的サブクローンのゲノムデータと空間トランスクリプトームデータの融合に成功した。腫瘍免疫微小環境とゲノム不安定性の統合的理解は、同一個体内でサブクローン毎に異なる免疫抑制環境がどのように構築・存在するかが「見て分かる」ようになる。2023年度は、尿路上皮がん剖検組織を用いる解析を進め、免疫療法後に生存するサブクローンと生息ニッチを細胞レベルで明らかにした。さらに、独自の多領域遺伝子変異解析では、サブクローンの一部は免疫治療の選択圧下で、ドライバーとなりうる固有な変異を獲得することを明らかにした。また、空間トランスクリプトーム解析により、免疫療法に耐性を示すサブクローンが、その生息部位と一致して独自の免疫抑制環境を形成していることも明らかになり、抗PD-1/PD-L1療法を受けた検証コホートを用いて、特定のサブクローン悪性度の妥当性が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度は、2022年度に構築した多様性解析アルゴリズムの実装をさらに進めた。標的サブクローンを空間的トランスクリプトーム上で同定することは、サブクローンの空間的位置が腫瘍間質にどのような影響を与えているかを解明する上で、大きな足掛かりになる。実際に尿路上皮がん剖検組織を用いた解析では、サブクローンの一部は、①免疫治療の選択圧下でドライバーとなりうる変異を独自に獲得することを突き止め、②サブクローンの生息部位と一致して、独自の免疫抑制環境が形成されていることも明らかにした。このような検討のボトルネックは、免疫治療下のバルク腫瘍組織の稀少性であるが、当教室の豊富な組織アーカイブからは検討に適した臨床サンプルの確保に成功しており、我々はこの豊富な臨床サンプルで今後さらに検討を進めたいと考えている。一方、空間的トランスクリプトーム解析と多様性解析アルゴリズムの実装は、データ量が膨大で、ビックデータの処理にやや時間を要している。また本研究は、最終的にリキッドバイオプシーで、がん免疫ゲノミクスを体外的に予測するプラットフォーム構築を目指している。このリキッドバイオプシーからゲノム異常や免疫環境を予測するモデルも、現在プラットフォームの構築中であり、前向き研究の実装には時間を要している。 次年度は、これら成果の解析を円滑に進め、本研究が目的とする「In situな尿路上皮がん免疫ゲノミクス多様性解析」とその予測を可能にする「リキッドバイオプシーの確立」を達成したいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
同一腫瘍内で異なったトランスクリプトームを持つ複数の細胞集団が、極度の低酸素・低栄養で過酷ながん微小環境下で、最も生存に適応し得る特定のサブクローンを生み出すことが、最新のシングルセル研究で明らかとなっている。サブクローン毎に異なるドライバー変異を背景に、同じがん組織であっても領域毎に異なる腫瘍免疫微小環境の形成を促し、免疫チェックポイント阻害薬耐性の原因となってる。しかし、実際にドライバー変異と周辺細胞との相互作用を評価する方法は確立されていない。 2023年度は、独自の尿路上皮がん多様性解析で、免疫療法後に生存するサブクローンのゲノム変化・トランスクリプトームや生息ニッチの詳細を細胞レベル・in situで明らかにした。がんゲノム変異を空間トランスクリプトーム上で再現できる解析パイプラインからは、微小環境の悪性変化に関与するドライバー変異や腫瘍免疫を免疫チェックポイント阻害薬感受性にリプログラミングする創薬標的を同定することに繋がると考える。既に得られているビックデータには、免疫チェックポイント阻害薬後の腫瘍組織も多数含まれる。次年度は、腫瘍サンプルの収集の継続に加えて、免疫チェックポイント阻害薬耐性に関わるゲノム変異と空間的に配置された細胞間の相互作用の解明を中心に進め、癌種横断的に汎用性のあるターゲット分子の同定に繋げたい。また、最終的に我々は、リキッドバイオプシー技術を用いて、不均一ながん免疫ゲノミクスを体外的に予測することを目標にしており、次年度はリキッドバイオプシーの観点からも一層、解析の基盤整備を進めたいと考える。
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