研究課題/領域番号 |
22H03221
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
入山 高行 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (10570442)
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研究分担者 |
熊澤 惠一 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (90444546)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 妊娠高血圧腎症 |
研究実績の概要 |
PEの病態形成においてレニン-アンジオテンシン系(RAS)の亢進は中心的な機序である。アンジオテンシンⅡ1型(AT1)受容体の過剰な活性化は、高血圧のみならず、絨毛細胞の機能障害による胎盤機能不全、腎障害などPEに特徴的な多臓器障害を惹起する。この機序にはAT1受容体に対する自己抗体(AT1AA)による自己免疫学的な機序の関与が知られている。RASの阻害は、母体症状と胎盤機能不全の両者を改善する、PEに対する理想的な治療となりうる。しかし、RAS阻害剤は、胎児毒性のために妊娠中に投与ができないという大きなジレンマがある。胎児への毒性懸念のない非胎盤通過型アンジオテンシンⅡ1型受容体拮抗剤(ARB)の創製によるRAS亢進の抑制に向け、既存のARBを出発点として新しい化合物の合成展開を行った。既存のARBにポリエチレングリコール鎖を付加して分子量を大きくして脂溶性の低減をはかり、さらには多量体化を図ることで、妊娠マウスにおける化合物の胎仔への移行(胎盤通過性)が抑制される、という結果を得た。そして、ヒト胎盤を用いた還流実験を行い、得られた化合物が既存薬に比べて十分に透過性が抑制されていることを確認した。また、アンジオテンシンⅡを投与することによるマウスモデルを施行し、化合物が十分な薬効を示すことを確認した。さらに、得られた化合物は、出発点としたARBに比較して、胎児の毒性としての腎障害が明らかに抑制されていることを確認した。 また、分子Xは自己免疫学的な機序でPEの発症に関わる分子だが、わが国のPE患者においてどの程度の頻度でその血中濃度が亢進しているのか明らかとされていない。そこで、分子Xの血中濃度を鋭敏にハイスループットで測定できる系を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、毒性を回避しつつ薬効を示す、安全域が確保された新規のARBを得ることができたため。しかし、臨床試験などに向けて発展させていくためには、得られた化合物よりさらに胎盤透過性が低く、毒性の低い化合物を得る必要がある。そこで、ポリエチレングリコール鎖を付加して分子量を大きくする方向性ではなく、別のアプローチ(イオン化の増強など)での合成展開により、さらに胎盤透過性の低いARBが得られる可能性を示す結果が得られつつあり、その点は予想以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
東京大学創薬機構からの支援を継続的に受けつつ、研究を展開していく。非胎盤通過型の新薬の創製においては、化合物の合成展開、マウスでの濃度の測定などの協力を得つつ、現在得られている化合物よりもさらに胎盤透過性が低く、薬効を十分に有する化合物の取得を目指す。ポリエチレングリコール鎖を付加して分子量を大きくする方向性ではなく、別のアプローチ(イオン化の増強など)での合成展開によって、より胎盤透過性の低いARBが得られる可能性を示す結果が得られつつあり、さらに検討を進めていく。また、分子XのPE患者での血中濃度を明らかとし、さらにはPE患者血中の分子Xを阻害する方向性での治療法の開発に向け研究を展開していきたい。
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