研究課題/領域番号 |
22H03225
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
上田 豊 大阪大学, 大学院医学系研究科, 講師 (10346215)
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研究分担者 |
中川 慧 大阪大学, 大学院医学系研究科, 助教 (30650593)
八木 麻未 大阪大学, 大学院医学系研究科, 特任助教(常勤) (30793450)
池田 さやか 国立研究開発法人国立がん研究センター, がん対策研究所, 特任研究員 (40818902)
市川 学 芝浦工業大学, システム理工学部, 准教授 (60553873)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | HPVワクチン / 情報共有 / インターネット調査 |
研究実績の概要 |
当研究は、HPVワクチンの再普及につながる情報発信手法を確立し、その再普及状況に応じて、生まれ年度による生涯の子宮頸がん罹患・死亡リスクの予測を行うことを目的としている。特に、医師や友人等からの情報伝達がどのように広がり、それが実際の接種にどの程度結びついていくのかをコンピューター内での社会シミュレーション法、特にAgent- based simulation手法を用いて探索する予定である。 2022年度は、17-49歳の日本在住の女性計1045人(17-25歳のキャッチアップ接種対象群:358人、定期接種対象年齢の娘を持つ母親群:354人、一般の17-49歳女性群:399人)を対象としたインターネット調査実施し、HPVワクチンを含む健康情報等の共有のされ方や、それが意思決定・行動変容に及ぼす影響を解析した。各群において、情報伝達・入手手段として使用するSNSの種類には有意な差が検出された。また、健康情報の入手元についても差異があったが、情報元への信頼度については有意な差は検出されなかった。健康に関する興味深い情報を知った際の情報の共有先については、いずれも家族が最多であった。HPVワクチンについて、他者と情報共有した割合は新型コロナワクチンより有意に低率であった。また、医学的には推奨されていない情報に接した際の情報の正確性の評価行動や、その情報の共有については、群によって差異が認められた。 以上のように、HPVワクチンの定期接種の意思決定主体である母親層およびキャッチアップ接種の意思決定主体である対象者本人のHPVワクチンを含む健康情報の入手や情報への態度、知人等への共有についての特性が把握でき、2023年度以降のAgent- based simulationの元データを入手できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度においては、当初の計画通りに17-49歳の日本在住の女性計1045人を対象としたインターネット調査実施し、HPVワクチンを含む健康情報等の共有のされ方や、それが意思決定・行動変容に及ぼす影響を解析した(実施前にはインタビュー調査を行い、それを基にインターネット調査の質問項目の設定を行った)。これは、2023年度以降に行うAgent- based simulation手法による情報伝達の総和としての接種行動への波及効果予測の前提となるデータとなった。 ただし、2021年11月にHPVワクチンの定期接種の積極的勧奨再開が発表され、事実上、2022年4月から各自治体で対象者に対する積極的勧奨が行われている。また、積極的勧奨が差し控えられていた期間に接種しないまま対象年齢を越えた女性に対するキャッチアップ接種も2022年4月から実施されている。実際に定期接種およびキャッチアップ接種の接種率がどの程度になっているかはまだ公表されていないが、周囲の環境(友人・知人にの接種状況など)が接種の意思決定に影響を与えると考えられ、今後接種状況が大きく変化する場合には、当研究においても上述の情報伝達やそれが意思決定に及ぼす効果に関するデータの再調査が必要となる可能性がある。 また、Agent-based simulationに関しても、HPV感染の伝播のシミュレーションを継続的にトライしており、様々なシナリオでのHPV感染の広がりが精度よく予測できる状態になってきている。 以上のことから、当研究の進捗はおおむね順調と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
生まれ年度による生涯の子宮頸がん罹患・死亡リスクの予測が最終目標であるが、その基となるのがHPVワクチン接種率であり、それには社会環境や情報の共有のされ方が大きく関わる。2022年度にはインターネット調査にて、HPVワクチン定期接種対象者の母親およびキャッチアップ接種対象者本人のHPVワクチンを含む健康情報の入手に関する特性を把握できた。2023年度以降は、これらデータを基にHPVワクチンに関する情報の拡散のされ方や接種行動をいくつかのシナリオ(社旗環境の変化、医師からの情報提供の有無・程度、医師から接種者の母親に対する友人への情報伝達の依頼の有無・程度、接種者の母親から友人への情報提供の有無・程度、等)の下でシミュレーションに取り組む。このシミュレーションにおいては、、現実の社会を模して様々な属性を持った構成員を内包した仮想社会モデルを構築し、その中での仮想人間活動(相互作用)を通しての情報共有の仕方や意思決定、行動変容を模倣するAgent- based simulation手法を用いる予定である。これによって、情報の拡散とそれに基づく行動変容の起こり方が見える化され、HPVワクチン普及プロセスが再現でき、70%程度の接種率に戻すための必要条件(至適シナリオ)を探索できるものと考える。さらに、これらによって想定される接種率を基に、各生まれ年度ごとの生涯の子宮頸がん罹患・死亡リスクの予測を行う予定である。
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