細胞における炎症応答にはNF-κB経路が重要であることが知られている。そこで、骨髄細胞由来マクロファージを用いて、小胞体ストレスによるNF-κB経路への影響を解析した。小胞体ストレス誘導剤としては糖鎖付加阻害薬であるツニカマイシンを用いた。解析の結果、小胞体ストレスがNF-κB経路を活性化させていることを確認した。一方、小胞体ストレスによるNF-κB経路の活性化のみでは少なくともマクロファージの十分な炎症応答には至っていないこともわかった。続いて、NF-κB経路の活性化誘導に直接小胞体ストレス関連転写因子が関与する可能性があるため、主な小胞体ストレス関連転写因子をレンチウイルスシステムを用いてマクロファージに過剰発現させ、NF-κB経路の発現変動を分子細胞生物学的手法に解析した。その結果、小胞体ストレス関連転写因子の過剰発現はNF-κB経路の活性化を誘導しなかった。一方、小胞体ストレスによってLPS誘導性の炎症応答は増強された。この小胞体ストレスによる炎症応答の増強効果は、小胞体ストレス負荷時間に依存して増加した。この結果は小胞体ストレスによる細胞応答が炎症応答の増強に関わっていることを示唆していた。以上から、小胞体ストレスはNF-κB経路を活性化させるものの、単独では炎症応答を十分に誘導しないが、LPSによる炎症応答を増強する作用があることがわかった。また、この小胞体ストレスによる炎症応答の増強作用にはNF-κB経路だけではなく、小胞体ストレス依存的な未同定の経路が関わる可能性を見出した。
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