研究課題
小児や高齢者の口腔・鼻咽腔領域で高頻度に認められる肺炎球菌や化膿レンサ球菌は、局所バリアの破綻と免疫回避を経て、遠隔組織で致死性の高い侵襲性疾患を惹起する。そこで本年度は、レンサ球菌が定着する口腔や鼻咽腔といったニッチにおける感染伝播機構の解明を試みた。一つ目に、中耳炎由来の肺炎球菌 EF3030 株 (血清型 19F) をモデル細菌として肺炎球菌性髄膜炎マウスモデルの構築を試みた。鼻粘膜に定着した肺炎球菌は重症肺炎を引き起こさず、非血行性に脳組織へ伝播することが示唆された。また、野生株感染マウスの脳組織の免疫蛍光染色像から、鼻粘膜上皮への細菌の定着と嗅神経への局在、ならびに脳の嗅球、大脳および小脳への伝播が観察された。以上の結果から、鼻粘膜上皮に定着した 肺炎球菌は嗅神経を介して脳組織へ伝播することが示唆された.二つ目に、咽頭炎の起因菌となる化膿レンサ球菌において、唾液中に食物由来で存在することが知られるマルトースやデキストリンを利用した場合、グルコースを利用する場合とは溶血毒素の発現様式が大きく異なることを見出した。溶血毒素であるストレプトリジンS(SLS)またはストレプトリジンO(SLO)の欠失株を用い、各糖質を利用した場合の菌の溶血活性を評価した。その結果、菌がグルコースを利用する場合の溶血活性はSLO依存的であるのに対し、マルトース利用ではSLS依存的、マルトデキストリン利用ではSLOおよびSLS依存的に溶血活性を発揮することが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
肺炎球菌性髄膜炎マウスモデルの構築に成功し、鼻粘膜に定着した肺炎球菌は重症肺炎を引き起こさず、非血行性に脳組織へ伝播することを示すことができた。さらには、化膿レンサ球菌の主要な病原因子と広く知られているSLSとSLOの発現機構が、宿主ニッチの栄養源に応じて大きく変化することを示唆できた。
肺炎球菌性髄膜炎マウスモデルにおいて、どのように非血行性に脳組織へ伝播するのかを、宿主因子・菌因子の両面から検討する。また、化膿レンサ球菌において、利用する糖質の違いが、なぜ溶血毒素の発現様式に大きな変化をもたらすのか、そのメカニズムを明らかにする。
すべて 2024 2023 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
Jpn. Dent. Sci. Rev.
巻: 60 ページ: 44-52
10.1016/j.jdsr.2023.12.006
Arch. Microbiol.
巻: 206 ページ: 4
10.1007/s00203-023-03727-1
mSystems
巻: 8 ページ: e0024723
10.1128/msystems.00247-23
Microbiol. Immunol
巻: 67 ページ: 319-333
10.1111/1348-0421.13069
医学のあゆみ
巻: 288 ページ: 869-874
10.32118/ayu28810869
Front. Microbiol.
巻: 14 ページ: 1341820
10.3389/fmicb.2023.1341820
https://www.dent.osaka-u.ac.jp/mcrbio/mcrbio-2705