研究課題/領域番号 |
22H03274
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
松本 卓也 岡山大学, 医歯薬学域, 教授 (40324793)
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研究分担者 |
江草 宏 東北大学, 歯学研究科, 教授 (30379078)
ハラ エミリオ・サトシ 岡山大学, 医歯薬学域, 研究准教授 (40779443)
岡田 正弘 岡山大学, 医歯薬学域, 准教授 (70416220)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 迅速組織再生 / 骨組織 / 人工細胞膜 |
研究実績の概要 |
実際の生体における石灰化形成をさらに理解する目的で、象牙質初期石灰化過程の詳細な検討を行った。具体的にはマウス発生初期の第1大臼歯象牙質を日齢ごとのシリーズで電子顕微鏡観察、免疫染色を元に観察した。これら観察結果をもとにこの過程に関与する物質や環境の変化、石灰化を誘導する因子の同定についての検討を進めた。その結果、マウス第1大臼歯の象牙質初期石灰化は生後0-1日頃、頬側中央咬頭の咬頭頂から開始し、その領域が咬頭表面に沿って広がっていくこと、この部位において、細胞膜由来と思われるリン脂質の沈着が認められることをみつけた。さらにこのリン脂質は象牙芽細胞が産生したコラーゲン上に付着しており、このコラーゲン上リン脂質が初期石灰化誘導因子として働くことが示唆された。その確認実験の一環として、リン脂質付着状態を再現した間葉系幹細胞を用いた in vitroでの石灰化実験を行った結果、迅速な石灰化誘導を実現した。これらの結果は、生体内における骨ならびに歯はともに細胞膜に由来するリン脂質が石灰化誘導に重要であることを示している。特に、細胞膜成分は象牙芽細胞が産生するコラーゲン基質に沈着し、石灰化誘導に働くということはこれまでに知られていない知見であり、更なる迅速石灰化実現における有用な結果である。これら結果に関して、昨年度2本の論文発表、ならびに6回の国内外学会での招待講演を行った。また、これら研究をもとに研究代表者は日本バイオマテリアル学会 学会賞の受賞にも至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先にも記載の通り、本年度の研究として象牙質石灰化メカニズムの理解を進めた。この検討はレジン包埋した非脱灰象牙質の反射電子像観察を中心に進めた。その結果、石灰化最前線である象牙前質付近の基質において、リンおよび脂質とコラーゲンとの共局在を見出し、これらはコラーゲンとリン脂質との吸着物であることが示唆された。さらに、象牙質、象牙前質における細胞形態変化、細胞膜の断片化から、これらリン脂質が細胞由来であることが示唆された。この細胞膜断片形成は細胞の物理的牽引により引き起こされているものと考えられる。つまり、ある程度分化した象牙芽細胞を断片化することで迅速石灰化を引き起こすことが可能である。実際に未分化間葉系幹細胞の断片から迅速石灰化誘導に成功するに至った。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の検討として、in vivo象牙質における石灰化過程を詳細に検討することで、象牙質初期石灰化においても細胞膜断片由来のリン脂質が石灰化誘導に大きく寄与していることを見出した。さらにこの細胞膜を模した断片化材料を用いて、in vitroでの迅速石灰化を達成するに至った。ここにおいて、リン脂質成分の末端基における酸性官能基、および塩基性官能基が大きく貢献している可能性が示唆されている。そこで今後はこの官能基を有する脂質模倣、両親媒性ポリマーを合成、微小実験系の構築により微小量での化学反応により石灰化誘導を実現する実験系を構築する。この新規実験系では、合成ポリマーを微小アレイ中に局在させ、リン酸カルシウムの析出を誘導する実験を再現する。この実験をもとに生成されるリン酸カルシウムの特性を評価することで、合成ポリマーの最適化を進める。また、実際の細胞を元に断片化する新たな方法を考案し、その石灰化誘導についても検討を進める。
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