研究課題/領域番号 |
22H03275
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
加治屋 幹人 広島大学, 病院(歯), 教授 (00633041)
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研究分担者 |
池谷 真 京都大学, iPS細胞研究所, 准教授 (20442923)
後藤 健彦 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 助教 (10274127)
太田 耕司 広島大学, 医系科学研究科(歯), 教授 (20335681)
加藤 功一 広島大学, 医系科学研究科(歯), 教授 (50283875)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 間葉系幹細胞集塊 / 神経堤細胞由来間葉系幹細胞 / 顎骨オルガノイド / 歯肉オルガノイド |
研究実績の概要 |
本研究では、口腔の起源となる神経堤細胞由来間葉系幹細胞をiPS細胞から誘導し(iNCC-MSCs)、集塊培養技術によって3次元化する。その細胞集塊に、細胞分化運命を決定するメカノトランスダクション制御培養法を組み合わせることで、顎骨・歯肉オルガノイドの作製を目指す。さらに、得られたオルガノイドの組織再生療法における有用性を検証し、口腔内環境を模倣するorganoids-on-a-chipの開発を行う。 研究開始年であるR4年度には、iPS細胞から神経堤細胞(NCC)を経て間葉系幹細胞(MSCs)に誘導するプロトコルを、再現性の高い完全合成培地使用条件で達成できた。さらに、得られたiNCC-MSCsを集塊化させC-iNCC-MSCsを作製することにも成功し、論文発表に至っている。また、YAP/TAZメカノトランスダクション制御培養のために、硬さ調整可能なゲルの開発に取り組み、ゲル作成のための組成条件の絞り込みを行った。 さらに、organodis-on-a-chipの作製には、適宜調整可能な細胞培養還流デバイスを独自に作製していく必要がある。そこで、その細胞培養還流デバイスをナノデバイス研究所にて開発をはじめ、いくつかの試作機が得られた。 一方、C-iNCC-MSCsに血管内皮を取り込ませることや、バイオ3DプリンタによるC-MSCs積層・複合化のための条件検討に成功した。この研究成果に基づき、歯肉オルガノイド作製のための培養条件検討も着実に進めている。 また、MSCs移植による歯周組織再生メカニズムを明らかにしていくことで、歯周組織の生理的な機能や恒常性維持機構にI型コラーゲンが重要な役割と担うことを見出した。この知見を利用することで、歯槽骨や歯肉を模倣するオルガノイドの構成成分を絞り込んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の根幹は、口腔の発生起源となるNCC-MSCsを十分数確保することにある。しかし、NCC-MSCsは発生期の限られた時期に出現する細胞であり、生体にはごく少数しか存在しない。つまり、研究利用に分離することが困難な細胞種といえる。そこでその解決策として、iPS細胞からNCC-MSCsを誘導することを共同研究機関である池谷研究室が成功したことは、本研究完遂のための大きな前進であった。また、in vitro研究の再現性を保つために、ウシ胎児血清を用いずに、完全合成培地で誘導するプロトコルを確立したことも重要な要素といえる。さらに、顎骨オルガノイド・歯肉オルガノイドを得るためには、人工材料を用いることなく、iNCC-MSCsを3次元的に培養する技術が必要であるが、そのための細胞集塊C-iNCC-MSCsも樹立できたため、研究進捗状況としては順調であると評価できる。 さらに、C-iNCC-MSCsから顎骨オルガノイドを得るために、YAP/TAZメカノシグナルを任意に制御できる培養方法が必要であり、そのためのゲル培養システムの構築にも取り組んだ。特に、研究分担者の後藤研究室を中心とした共同研究によって、細胞毒性を示さず、全体で均一な硬さを発揮するためのゲル作製方法見出すことに成功した。すなわち、YAP/TAZメカノシグナル制御培養の樹立のための重要な手段を確保したため、研究進捗はやはり順調といえる。 また、歯肉・顎骨の主な基質蛋白質であるI型コラーゲンが、MSCsによる歯周組織構築のための最適な微小環境となることを見出したことも、良好な結果であったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
前述したR4年度の研究成果を受けて、本年度では、独自に樹立した細胞集塊C-iNCC-MSCsを、やはり独自開発したゲル包埋培養システムに供試、YAP/TAZメカノシグナル制御による骨様組織誘導を試みる。その培養過程について、骨分化関連遺伝子群・基質産生量の変化を調べながら、最適な培養条件を見出す。さらに、硬さをより細かく設定することが可能なゲルを作製するための基礎研究を、後藤研究室と共同で進める。これによって、in vitroで顎骨オルガノイドの樹立を達成する。 歯肉オルガノイドの作製するために、血管内皮を取り込んだC-iNCC-MSCsを開発済みである。そこで本年度は、この血管内皮取り込みC-iNCC-MSCsのI型コラーゲン産生量を制御可能な培地条件を確定していく。さらに、cm単位の大型の歯肉オルガノイドを得るために、バイオ3Dプリンタを用いたC-iNCC-MSCs積層・複合化検証も併行して行う。 また、顎骨オルガノイドと歯肉オルガノイドを同時に培養することが可能なOrganoids-on-a-chip開発のために、すでに開発に成功したマイクロ流体還流デバイスの形態・流水圧の検討をおこない、最適化を行っていく予定である。 また、ヒト顎骨・ヒト歯肉をサンプルとして集め、作製する顎骨オルガノイド・歯肉オルガノイドとの網羅比較実験を遂行する予定である。 以上の検討を通じて、顎骨オルガノイド・歯肉オルガノイドを複合化し、口腔を模倣する口腔-on-a-chip作製のための基盤を確立していく。
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