研究課題
高齢者は感冒やインフルエンザなどのウイルス感染に罹患した後,口腔や鼻咽腔に常在する細菌による細菌性肺炎を合併し,重症化の転帰をたどることが多い.本研究では,高齢者の気道組織で惹起されるストレス応答に着目し,細菌性肺炎の病態形成機構を分子レベルでの解明を目指す.また,感染や炎症に伴い気道組織から放出される GP96 による肺炎の病態増悪機構を検証し,重症化を予見するバイオマーカーとしての機能を探索する.インフルエンザウイルスが感染したマウスの顎下腺と唾液腺の導管上皮細胞,ならびに,気管組織と気管腺において,GP96の強い発現誘導が認められた.これらの結果から,ウイルス感染に伴い上気道組織に誘導されたGP96は気道分泌液や唾液中に放出され,細菌感染を助長させる気道環境を形成している可能性が示唆された.実際,重複感染マウスの気管支肺胞洗浄液では,高濃度のGP96,ならびに,CXCL10とその誘導因子であるIFN-γ が検出された.また,ヒト単球系細胞株 (THP-1) をマクロファージ様に分化し,CXCL10の産生を評価した結果,IFN-γ単独刺激と比較して,GP96とIFN-γの共刺激により,THP-1マクロファージからのCXCL10の産生量は著しく増加した.以上の結果から,インフルエンザウイルスの感染に伴い,上気道組織からストレス応答分子として遊離したGP96は過剰な炎症応答を誘導し,肺炎病態の増悪化に寄与することが示唆された.
2: おおむね順調に進展している
ウイルス感染上気道および気管組織の表層では,小胞体局在シャペロンであるGP96 が異所性に誘導され,肺炎球菌の下気道への伝播と定着を亢進させることを明らかにした.また,GP96 はウイルス感染肺組織への細菌定着を亢進させるだけでなく,細胞外に遊離し,重症化の鍵を握る過剰な炎症応答を誘導するメディエーターとして機能することも証明したため,おおむね順調に進展している.
高齢者の気道組織を再現する動物モデルとして,inflamm-agingの表現型を呈するマウス,ならびに,気道上皮におけるヒト病原体センサーが機能するトランスジェニックマウスを感染モデルに応用し,老化と炎症に基づく肺炎の病態形成機構の解明を試みる.また,感染や炎症に伴い上気道組織から放出される GP96 による肺炎の重症化分子機構について,気道組織特異的に GP96 を欠損したコンディショナルノックアウト(cKO) マウスにより検証する.
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
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