研究課題/領域番号 |
22H03321
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
杉本 なおみ 慶應義塾大学, 看護医療学部(藤沢), 教授 (70288124)
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研究分担者 |
酒井 郁子 千葉大学, 大学院看護学研究院, 教授 (10197767)
大西 弘高 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (90401314)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 診療情報提供書 / 在宅(医療)移行期 / 多疾患併存状態 / 高齢者 / 病診連携 |
研究実績の概要 |
本研究では、複数の病気を抱え、病院への通院から在宅医による訪問診療に移行する高齢患者に関し、これまでの主治医である病院医が、今後の主治医となる在宅医に対して紹介状(「診療情報提供書」という)を作成する際に、どのような情報を含めるべきかという点について、在宅医が十分と感じ、病院医が過度に煩雑と感じない内容と詳細度を探ることを目的としている。 2023年度は研究の最終段階である両職種への提言に向け、病院医と在宅医の意見の統合を試みるための予備調査を行った。この調査では、ほぼ同数の病院医・在宅医に対し、(1)患者・家族がどのように病気を理解しているか、今後の治療に何を求めているか、どの程度協力的であるか、(2)治療に対して患者・家族の感じている負担はどの程度か、(3)どのような公的・私的支援が可能であるか、(4)困難に直面した際、頑張ろうとする力が患者自身にどの程度あるか、またこの力に影響を与えている要因(例:宗教・行動習慣)は何か、(5)病気がどのような経緯を辿り、どのような治療を行ってきたか、今後どのような治療が想定されるか、(6)入院中に問題行動は見られたか、(7)病院医は在宅医療に関しどのような説明を行ったか、在宅医が追加の情報を必要とする場合、病院医とどのような情報交換の機会があるか、患者が複数の診療科を受診していた場合、主治医以外からの情報がどの程度反映されているか、(8)診療情報提供書はどの程度詳細に書かれていることが望ましいか、などの点に関する病院医・在宅医双方の意見が、回答者の年代や医学部卒業後の年数、在宅医(または病院医)としての経験年数、勤務先の医療機関の種類や規模により異なるかを探った。 回答には職種等による有意差は見られなかったことから、これらの情報が病院医から在宅医に提供される必要度に関しては病院医・在宅医双方がある程度合意できるという結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
在宅移行期にある多疾患併存状態の高齢者に関し在宅医療機関宛診療情報提供書を作成する病院医が在宅医に提供すべき情報の同定という目的の達成に向け、2種類の調査を実施した。 まず、2022年度に着手した「複数疾患を持つ高齢者に関する診療情報の質の向上:在宅医・病院医双方の視点(病院医インタビュー調査)」は、病院医2名に面接を実施し予定数(10名)を充足してデータ収集を完了した。本調査では、2022年度に実施した在宅医対象アンケート調査にて得た、在宅移行期にある多疾患併存状態高齢者に関し在宅療養後方支援病院からの提供を在宅医が希望する情報に関する結果を提示し、病院医としての立場からの意見を求めた。 次に、この調査で得た病院医の意見を取り入れた上で在宅医の要望を精査し、その結果を多疾患併存状態患者への介入に関する意思決定の枠組みである「マルモのバランスモデル」(大浦 2023)に沿って分類した「在宅移行期にある多疾患併存状態高齢者に関し在宅医が病院医からの提供を望む情報」リスト19項目を中心に、診療情報提供書の適切な詳細度を問う項目、病院医から在宅医への情報提供全般に関する自由記述項目、回答者の属性(年代・医学部卒後年数)、在宅医療(または在宅療養後方支援病院)経験年数、多疾患併存状態の高齢者の診療情報を在宅療養後方支援病院から提供された(または在宅医療機関に提供した)経験、所属先経営形態(診療所・病院)・病床数に関する項目を加えた調査票を作成し、病院医34名・在宅医32名を対象とするアンケート調査を実施した。 この予備調査では、在宅移行期にある多疾患併存状態の高齢者に関し在宅療養後方支援病院から在宅医療機関に提供されるべき情報の種類に関して職種別の有意差は見られなかったことから、これまでの一連の研究により得られた知見は病院医・在宅医共に一定の合意が得られる内容であることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
在宅移行期にある多疾患併存状態の高齢者に関し在宅医療機関宛診療情報提供書を作成する病院医が在宅医に提供すべき情報の同定を目指す本研究の最終年度にあたる2024年度には、調査・分析・研究成果公開に関し以下の推進方策を計画している。 まず、2023年度にデータ収集を完了した「複数疾患を持つ高齢者に関する診療情報の質の向上:在宅医・病院医双方の視点(病院医インタビュー調査)」の結果については、病院医の間でどのような意見が見られたかを集約するための質的分析を行う。 次に、「在宅移行期複数疾患併存状態高齢患者の診療情報提供に関する病院医・在宅医対象アンケート調査」に関しては、予備調査で得られた66名分の回答に対し、2023年度においては2変量解析を行ったが、これを多変量解析を用いて再度分析し、回答結果に影響を与える職種以外の要因(例:経験年数、勤務先種別・規模)を探究する。 また、この予備調査分析結果を勘案の上、本調査の実施を検討し、必要に応じ調査内容の精錬を経た後、病院医・在宅医100名程度を対象とするアンケート調査を行う。この質問紙調査回答結果については、予備調査同様、主に量的分析に付す。 これら3種類の調査・分析により得られた結果は、関連学会(日本医学教育学会、日本医療教授システム学会、日本ヘルスコミュニケーション関連学会機構、日本在宅医療連合学会、日本プライマリ・ケア連合学会など)にて口頭発表を行った後、学術誌(「医学教育」、「医療職の能力開発」、「日本ヘルスコミュニケーション学会誌」、「日本在宅医療連合学会誌」、「日本プライマリ・ケア連合学会誌」など)掲載論文または研究成果報告書などの形態にて公開・共有し、研究成果の社会的還元に努める。
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