研究課題
本研究では、病原体の現場検出に最適と注目されている等温核酸増幅法であるリコンビナーゼポリメラーゼ増幅法(RPA法)で使用する、中温性のリコンビナーゼ(Rec)、一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)、鎖置換DNAポリメラーゼ(Pol)、ATP再生酵素(ARE)の活性と安定性を、全アミノ酸スキャニング変異導入法により向上させる。一方、好熱性微生物から新規のRec、SSB、Pol、AREを取得し、活性と安定性を比較することを目的としている。①中温性のAREであるヒトピルビン酸キナーゼ(PK)を大腸菌で発現させ菌体から調製した。PKを使用したRPAは、従来から使用されているウサギクレアチンキナーゼ(CKr)を使用したRPAと同等の性能を有した。PKはCKrよりも高い耐熱性を有したことから、PKを使用したRPA試薬の高い保存安定性が示唆された。②好熱性細菌であるAeribacillus pallidus (H1) とGeobacillus zalihae (C1)から好熱性のPol(H1-PolとC1-Pol)を単離した。そしてH1-PolとC1-Polを大腸菌で発現させ菌体から精製した。H1-PolあるいはC1-Polを使用したRPAは、従来から使用されているBacillus stearothermophilus由来Pol(Bst-Pol)を使用したRPAよりも高い感度を有した。H1-Polを使用したRPAの凍結乾燥試薬は、少なくとも2週間室温に置いても、液状試薬と同程度の性能を有した。このことから、本凍結乾燥試薬は現場での使用に適していることが示唆された。③中温性のRecであるuvsYの溶解度を上げるために、Lys91-Glu134に変異を導入した全アミノ酸スキャニングライブラリーを作製した。600クローンをスクリーニングの結果、有望な変異体16種を単離した。
2: おおむね順調に進展している
等温核酸増幅法は病原体の現場での迅速な検出に好ましいが、使用するタンパク質・酵素が不安定なため試薬の冷凍保存が必要である。コロナパンデミック社会を迎え、環境を対象とした病原体検査が公衆衛生上喫緊の課題となり、試薬の常温保存が求められている。申請者らはこれまでに、耐熱型逆転写酵素と高活性DNAポリメラーゼを開発し、これらを用いて新型コロナウイルスのRT-PCRを開発した。本研究では、病原体の現場検出に最適と注目されている等温核酸増幅法であるリコンビナーゼポリメラーゼ増幅法(RPA法)で使用する、中温性のリコンビナーゼ(Rec)、一本鎖DNA結合タンパク質(SSB)、鎖置換DNAポリメラーゼ(Pol)、ATP再生酵素(ARE)の活性と安定性を、全アミノ酸スキャニング変異導入法により向上させる。一方、好熱性微生物から新規のRec、SSB、Pol、AREを取得し、活性と安定性を比較することを目的としている。2022年度は、①中温性のAREであるヒトピルビン酸キナーゼ(PK)、②好熱性細菌であるAeribacillus pallidus (H1) とGeobacillus zalihae (C1)由来の好熱性PolであるH1-PolとC1-Pol、③中温性のRecであるuvsYについて成果をあげた。
・Rec:全アミノ酸スキャニングライブラリー法によりT4ファージ由来RecであるuvsXとuvsYの性能を向上させる。RadA、RadB、RadCの評価を行う。・SSB:T4ファージ由来SSBであるgp32の抗体を取得し、これを用いたRPA法の新規な検出法を構築する。TmaSSBとTK1961の評価を行う。・Pol:H1-Polの結晶を作製し、立体構造を解析する。・ATP再生系酵素:PKの評価を継続する。TK0511の評価を行う。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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