研究課題
筋痛性脳脊髄炎(ME)や線維筋痛症(FM)などの機能性身体症候群の原因は脳内炎症による可能性が示唆されている。本研究の目的は、MEやFMにおける脳内の責任炎症部位や関連回路を同定し、末梢からの入力を制御することにより、それら疾患の回復にリハビリ等の有効性を示す、すなわちリハビリによる脳内炎症緩和の可能性を検討することである。2022年度は、マウスを用いて我々のRCS刺激の至適条件設定を行った。その結果ラット等とは異なる温度刺激を用いることなど再現性良く実施できるプロトコールが完成した。次に、我々が開発した脳内の神経細胞の過活動に応答して神経細胞とその軸索(投射先)を同時にGFP標識できる新たなマウス(atf3 TG)を用いて脳内炎症責任部位と脳内回路の同定を試みた。その結果、RCSモデルでは固有感覚の一次知覚ニューロンの中枢枝を脊髄内あるいは延髄の薄束までGFP標識できることが明らかとなった。ただ、間脳以上の上位中枢では、RCS刺激によりGFP標識される神経細胞を検出することはできなかった。また、刺激開始後少し遅れて前角の運動ニューロンの一部がGFP陽性になり、その樹状突起と固有感覚一次ニューロンの軸索が全てGFPで染色されることが明らかになった。すなわち一部の筋の固有感覚の反射弓を形成する神経細胞がすべて過活動しGFPを発現していることがRCSモデルでも明らかになった。さらにこの反射弓に沿ってミクログリアの活性化が観察され、ミクログリアにより疼痛が惹起されている可能性が高くなった。このことから、以前筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)モデルとして用いた低水位の複合ストレスモデルで観察されたことと同様のことが、全く実験系の異なるRCSモデルにおいても生じていることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
2022年度は実験系の確立やトランスジェニックマウスがRCSモデルでうまく作動することが明らかになり、その成果も得られた。RCS負荷による神経細胞の過活動が間脳以上の上位中枢にまで及んでいるかどうかについては、今回のトランスジェニックマウスでは解析できなかった。しかし 疼痛発症原因が固有感覚の異常であること、特に反射弓に沿ったミクログリアの活性化が見られたことは、大きな成果である。当初の3年間の研究計画全体のうち約半分程まで進捗している。一部内容は学会等で発表した。
当初の研究方針からの変更等はない。2023年度は、2022年度までの成果にさらにデータを追加して論文にまとめる予定である。また、同様の内容を日本疲労学会や日本解剖学会などの学会で発表を予定している。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件)
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