研究課題/領域番号 |
22H03500
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
窪田 慎治 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 モデル動物開発研究部, 室長 (40835419)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | sensory gain modulation / 運動制御 / 小脳内部モデル / 楔状束核 |
研究実績の概要 |
身体運動の制御および運動学習において小脳は重要な役割を果たす。四肢の協調運動は小脳が体性感覚を指標に身体の状態予測を行うことで実現していると考えられているが、この体性感覚情報の処理を担う神経機構は明らかにされていない。本研究は小脳に伝達される固有感覚情報を手掛かりに、行動学、電気生理学、光および化学遺伝学的手法を用いて、小脳を介した予測的な運動の制御に固有感覚フィードバックが果たす役割について検証を行う。具体的には、マカクサルを対象に、上肢の固有感覚の一次中継核である延髄副楔状束核の神経活動を随意運動中に記録し、運動中に小脳が受け取る固有感覚情報を明らかにするとともに、光遺伝学的手法を用いた介入操作により、延髄楔状束核への遠心性入力を抑制することで、その感覚情報を用いた小脳を中心とした運動制御機構の動作原理を理解することを目的とする。 研究期間の初年度である2022年度は、主に実験個体であるマカクサルの行動訓練ならびに化学遺伝学的手法(DREADDs)を用いた大脳皮質ー楔状束核間における神経活動の操作方法の確立を行った。マカクサルの行動訓練に関しては、すでに3頭の個体で訓練が終了し、大脳皮質・脳幹部からの神経活動を記録するための外科的手術に取り掛かっている。遺伝学的手法を用いた神経活動の操作技術の確立に関しては、2頭の個体においてアデノ随伴ウイルスベクター(AAVベクター)を用いて標的部位への遺伝子導入を行い、実験手法の確立を進めている。 今後は、外科的手術が終了した個体から順次、覚醒行動下における延髄楔状束核の神経活動を記録する。また、慢性記録実験に並行し、DREADDsを用いた大脳皮質ー楔状束核間の神経活動の操作を可能にする実験手法の確立を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、実験3頭のマカクサルの行動訓練を行い、手指のつまみ運動および手首の屈伸運動の2種類課題を行うことができている。また、3頭のうち2頭で、すでに頭部固定のための外科的手術が終了している。今後末梢神経刺激用電極および筋電図記録用電極の埋め込み術、頭部チャンバー留置術を順次行い、大脳皮質、脳幹部の感覚神経細胞の記録を開始する予定である。また、化学遺伝学的手法を用いた神経細胞の活動操作に関しては、2頭の個体で大脳皮質へのウイルス注入実験を行い、大脳皮質から楔状束核への軸索投射に関して解析を開始している。今後、遺伝子発現領域への薬液直接投与を行い、神経活動の操作とそれに伴う行動の変化について検証を行なっていく予定にしている。 以上が本年度の状況である。今後本実験を行う準備を整えることができているため、研究計画全体は概ね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、行動訓練の終了した実験個体に対して、大脳皮質および脳幹部から神経活動を記録するための外科的処置を順次進めていく。具体的には、末梢神経刺激用電極および筋電図記録用電極の埋め込み術、頭部チャンバー留置術を順次進めていく。外科的処置が終了したのち、覚醒行動下において標的とする脳部位からの神経活動記録を実施する。 また、上記に並行し、化学遺伝学的手法(DREADDs)を用いた介入操作を行うための実験手法の確立を行う。具体的には、アデノ随伴ウイルスベクター(AAVベクター)を用いて抑制性の人工受容体を大脳皮質感覚運動野に注入し、タンパク質を発現した神経細胞軸索へのデククロクロザピン(DCZ)の直接投与により、大脳皮質から楔状束核への信号伝達の遮断を行う。まず、大脳皮質運動野、感覚野それぞれにAAVウイルスを注入し、標的とする脳領域への人工受容体の発現の有無を解剖学的に確認する。得られた結果をもとに、AAVウイルスの注入部位、量などを決定する。その後、延髄楔状束核へDCZを注入することで、神経活動の変化を確認する。これらの一連の過程を通して、DREADDsの効果を検証し、行動実験へと移行していく。
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