研究課題/領域番号 |
22H03508
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
林 良敬 名古屋大学, 環境医学研究所, 教授 (80420363)
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研究分担者 |
堀 美香 名古屋大学, 環境医学研究所, 講師 (60598043)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 糖新生 / 肝小葉 / グルカゴン / アミノ酸 / ランゲルハンス島 / 代謝制御 / 膵臓神経内分泌腫瘍 |
研究実績の概要 |
グルカゴンはインスリンと同様、約100年前に発見された。その発見の経緯からグルカゴンの主要な生理作用は血糖上昇であると長く考えられてきた。我々は2009年に世界で初めてグルカゴン遺伝子を欠損する動物モデル(GCGKO)を作出し、その表現型解析を進めてきた。GCGKOを対照群であるヘテロ接合体との間では血糖値に統計学的に有意な差を認めない一方で、GCGKOが肝臓におけるアミノ酸代謝酵素の発現の低下に伴って、高アミノ酸血症を示す事を明らかとしてきた。またGCGKOはグルカゴン遺伝子のかわりに緑色蛍光蛋白質を発現する「α細胞」の過形成を示し、加齢に伴って膵臓の神経内分泌腫瘍を形成することも報告してきた。我々のこれまでの実績を含む、国内外の研究成果の集積から近年においては、肝臓と膵臓ランゲルハンス島のα細胞の間にグルカゴンとアミノ酸を媒介した強固な相互フィードバックが存在することは、ほぼ確立されるに至っている。 アミノ酸は生体の主要構成成分であるタンパク質の構成要素であり、その血中濃度は通常の栄養摂取条件のもとでは一定範囲に保たれている。しかしながら、臓器・個体レベルにおけるアミノ酸代謝の制御機構・恒常性維持機構の解明はほとんど進んでいない。アミノ酸からアミノ基が除去された代謝産物は、主に肝臓においてブドウ糖へと変換され、肝静脈を経て全身へ放出されエネルギー源となる。本研究は、動物個体の高蛋白質食負荷に対する応答や、アミノ酸の主要な代謝の場である肝臓の小葉構造に注目した解析、さらには安定同位体である13Cを含むアミノ酸を投与して、呼気への13CO2排出を測定することによる個体レベルでのアミノ酸異化の解析などを行うことにより、アミノ酸代謝の恒常性維持機構を解明することを目的としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高蛋白質食負荷に対する応答の解析結果については2022年度に論文報告した。この過程で、分岐鎖アミノ酸の代謝状況を解析するためには筋肉の解析も必要であることが明らかとなったため、グルカゴン遺伝子欠損マウスの筋肉の形態・遺伝子発現等の解析を行った結果、グルカゴンの欠損により骨格筋重量の増加や遅筋から速筋への移行等、高タンパク質食の接種によりみられる変化が起きていることが示された。グルカゴン欠損においては血中アミノ酸濃度が上昇したいることが、この変化の背景にあると考えられた。これらの内容は2023年度に論文報告した。肝臓の小葉構造に着目したzonationの解析や安定同位体を含むアミノ酸を投与する解析は現在も進めている。Zonation解析や安定同位体を用いた解析は、当初の想定よりは時間がかかっているが、高蛋白質食負荷や筋肉の解析については論文報告にまとめていることから、総合的には、概ね順調と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
運動・摂餌・飲水測定システムが付随した呼気ガス質量分析システムを用いて、13C同位体を含むグルコースを腹腔内投与し、呼気中の13Cを含む二酸化炭素の量を測定することにより、投与されたグルコースに由来する13Cがどのように排出されるか測定できることが確認できている。今後引き続き、アミノ酸の動的な代謝を捕捉するために、アラニン・グルタミンをはじめとするアミノ酸を投与してグルカゴン遺伝子欠損マウスおよび対照群の間の、アミノ酸の動的な代謝の違いと、これらの違いが生じる機構の解析を行う。 肝臓のZonationについては、Zoneのマーカーとなる蛋白質(アミノ酸代謝酵素を含む)に対する特異的抗体を用いた免疫組織化学による定量的解析を引き続き行う。また蛋白質摂取量の変化がZonationに及ぼす影響の解析を進める。グルカゴンの生物学的半減期が極めて短いためにグルカゴン補充実験で安定した結果を得ることが困難であるため、持続的な作用を持つグルカゴンアゴニストを用いた実験を検討する。
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