研究課題/領域番号 |
22H03516
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
塚原 完 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 准教授 (00529943)
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研究分担者 |
羽二生 久夫 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (30252050)
松本 弦 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 講師 (50415303)
片上 幸美 長崎大学, 熱帯医学研究所, 客員研究員 (60722296)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 神経変性疾患 / α-シヌクレイン / 凝集体 / リゾリン脂質 |
研究実績の概要 |
本研究ではPLDP (Porcine Liver Decomposition Product, ブタ肝臓酵素分解物) から抽出したリン脂質混合物 (PLDP Extracted Lipids, PEL) を被験物とし、被検物より活性本体を同定後、α-Syn凝集抑制効果を評価した。PELに含まれるリン脂質分子種のスクリーニングによる活性本体の同定の他に、細胞毒性評価、in vitroモデルを用いた作用機序について検討した。SK-N-SHヒト神経芽細胞腫細胞株にα-Syn発現プラスミドベクターとα-Synシードを導入することで、細胞内にα-Syn凝集体を形成する細胞モデルを構築した。本モデルにPELを曝露したところ、PELの濃度依存的に細胞内凝集α-Synを減少させることが明らかとなった。PELは様々なリン脂質の混合物であることから、その活性本体を同定するために、PELに含まれているリゾリン脂質分子種をLC-MS/MSにより解析した。リゾリン脂質は一本の脂肪酸鎖と極性頭部から構成されるグリセロリン脂質の総称で、近年様々な疾患における脂質メディエーターとしての働きが報告されている。PELにはリゾホスファチジルコリン (LPC) やリゾホスファチジルエタノールアミン (LPE)、リゾホスファチジルイノシトール (LPI) が含まれており、特に豊富な7種類の分子種について細胞モデルを用いてスクリーニングを行った。その結果、LPC 16:0, 18:0, 18:1とLPE 16:0に強いα-Syn凝集阻害活性が認められた。次にリゾリン脂質によるα-Syn凝集の阻害メカニズムを調査するために、アミロイド線維に特異的に結合する蛍光色素であるThioflavin Tを用いて、精製α-Synの線維化を追跡するin vitroモデルを構築した。このモデルを用いて脂質添加による蛍光強度の変化を調査したところ、LPC 18:1とLPE 18:1が1 nMの低濃度においても強い凝集阻害活性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では先行研究においてヒトの認知機能を改善する効果が報告されているPLDP (Porcine Liver Decomposition Product, ブタ肝臓酵素分解物) に焦点を当て、PLDP由来のリン脂質混合物 (PEL, PLDP Extracted Lipids) におけるα-Syn凝集抑制効果を検討した。α-Synの凝集形成過程には「核依存性重合仮説」が提唱されており、本研究においてはこのモデルに則った細胞内α-Syn凝集モデルを作製した。α-Synを過剰発現させた細胞にα-Synシードを導入したところ、細胞内のα-Synは界面活性剤への抵抗性やSer129残基におけるリン酸化、クロスβ-シート構造の形成、封入体様構造の形成を示し、疾患特異的な異常α-Synの特徴を再現していた。一方でLys21残基やLys23残基におけるユビキチン化も病態α-Synにおいて観察されており、今後これらについても検討することで、より病態に近い細胞モデルの構築が出来ると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
細胞モデルを用いて、PLDP由来のリン脂質 (PEL) が細胞内α-Syn凝集形成を抑制することを明らかにした。先行研究においてPLDPの経口摂取により、40歳以上の成人における視覚性認知機能や遅延想起を改善させることが報告されているが、その作用機序は未解明である。食事由来の栄養因子における神経機能やシナプス可塑性への影響については、いくつかの作用機序が報告されており、摂取した栄養素の組成が脳の活動や記憶に重要な役割を果たしている可能性がある。本研究における細胞モデルを用いた試験の結果より、PLDP由来のリン脂質が脳内でα-Synの凝集を抑制することで神経機能を賦活している可能性が考えられた。さらにPELに含まれるリゾリン脂質のスクリーニングにより、LPC 16:0, 18:0, 18:1とLPE 16:0が細胞内にてα-Syn凝集阻害活性を持つ分子種として同定された。また、in vitroモデルを用いた試験にてリゾリン脂質がα-Synの重合を阻害したことから、PEL由来の特定のリゾリン脂質分子種が細胞内において直接α-Synと結合し、その構造安定化を介して線維化を阻害していることが考えられた。一方でin vitroモデルにおけるスクリーニング結果は細胞モデルの結果と若干異なった部分があり、細胞モデルで効果を示さないリゾリン脂質分子種についても、その細胞膜透過性や細胞内代謝の有無について慎重に調査する必要がある。
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