研究課題/領域番号 |
22H03586
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
笹部 昌弘 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (10379109)
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研究分担者 |
原 崇徳 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (70907881)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ネットワーク機能仮想化(NFV) / サービスチェイニング / 機能配置 / 整数線形最適化(ILO) / 容量制約付き最短経路ツアー問題(CSPTP) / ラグランジュ緩和 |
研究実績の概要 |
本研究が目指す持続可能なNFVネットワークは,数理最適化によるサービスチェイニング・機能配置(要素技術1),時空間GNNによるサービス需要の時空間変化に追従可能な制御方式(要素技術2),軽量な仮想化技術に基づく適応力を備えたサービスパスの実現(要素技術3)という3つの要素技術の確立,および,それらの間の循環作用により実現可能と考えている.本年度は,代表者と分担者がそれぞれ主・副担当として,要素技術1の確立を目指した. サービスチェイニングでは,サービスチェイン要求に対し,物理ネットワーク上に適切なサービスパスを設定する.サービスパスは,始点ノードから始まり,物理ネットワーク上に配置された機能を所望の順にそれぞれ中継ノード上で実行した後,終点ノードへと至る最短経路となる.ただし,経路上の各ノードと各リンクでは,処理やトラヒックの観点で容量制約が存在する.応募者らはこれまでに,この問題が容量制約付き最短経路ツアー問題(CSPTP: Capacitated Shortest Path Tour Problem)に基づく整数線形最適化(ILO: Integer Linear Optimization)として定式化できることを発見していた. 一方でこの問題は,容量制約やサービスパス内でのループの可能性により,NP困難な組み合わせ最適化問題となる.そこで本研究では,最適性と計算量のバランスを考慮した新たな解法を確立した.具体的には,ラグランジュ緩和によるCSPTPのSPTPへの変換と劣勾配法を用いたラグランジュ乗数の制御,SPTP制約に関する全ユニモジュラ性を考慮した最適性を維持した形でのILPのLPへの線形緩和,といった数理的手法を組み合わせて実現している. また,ハードウェア・ソフトウェアの故障・障害発生に対して,サービスパスの可用性を一定レベル以上に維持するための冗長性を備えたサービスパスの構築手法を提案した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べたように,計算量の観点で課題のあった,CSPTP-based ILOとして定式化される,NFVネットワークにおけるサービスチェイニング・機能配置問題に対し,ラグランジュ緩和を中心とした複数の数理的手法の組み合わせの形で,最適性と計算量のバランスを考慮した新たな解法の確立に成功している. また,サービスパスを構成するノードや機能における故障・障害への一定レベルの耐性を有したサービスパスの構築手法の確立にも成功している. これら得られた成果の一部は,Springerの雑誌Journal of Network and Systems Management (Impact Factor: 2.198)に雑誌論文(査読あり)として採択されるとともに,電子情報通信学会・ネットワークシステム研究会における発表の形でも広く社会に公開している.
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今後の研究の推進方策 |
今後の方策としては,残された2つの要素技術,時空間GNNによるサービス需要の時空間変化に追従可能な制御方式(要素技術2),軽量な仮想化技術に基づく適応力を備えたサービスパスの実現(要素技術3)に対し,それぞれ来年度,再来年度にかけて取り組む予定である. これまでの検討では,サービスチェイン要求が1つ,あるいは,一定数到着するごとに,サービスパスを確立することを前提としていた.この仕組みは,見方を変えると,近視眼的にその時点での最適化を目指した手法とみなせる.一方で,ユーザの生活・行動様式には一定のパターンが存在すると考えられる.例えば,インターネット上での通信トラヒックには時間的トレンドが存在することがわかっている.また,日中は職場から,夜間は自宅からのサービス利用が多くなるなど,空間的トレンドも存在すると考えられる.このようなサービス需要に対する時空間的特徴を,GNNやその拡張となる時空間GNNなどを用いて学習することで,需要変化への追従性を備えた新たな制御技術の確立を目指す. 要素技術2の実現に向けては,GNNを中心とした機械学習・深層学習が基盤となるため,これらを高速・大容量に処理可能な計算機を導入することで研究を円滑に進める. 一方,要素技術3に関しては,研究開始当初はNetwork Service Mesh (NSM)と呼ばれる仮想化技術の導入を予定していたが,軽量な仮想化技術に関してはNSM以外にも複数の技術が登場しており,これらの間でのデファクト・スタンダードがまだ確立されていないのが現状である.これら研究開発の最新動向を注視しながら,本研究で用いる技術を選定する予定である. また,得られた研究成果に関しては,引き続き,研究会,国際会議,雑誌論文などの形で広く社会に公開することを計画している.
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