研究課題/領域番号 |
22H03604
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小野 謙二 九州大学, 情報基盤研究開発センター, 教授 (90334333)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 方程式推定 / サロゲートモデル / 遺伝的プログラミング / Julia / In-Situ処理 |
研究実績の概要 |
昨年度までに、方程式発見の中核技術である方程式推定システムの高速版プロトタイプをJuliaにより開発し、従前のPythonコードとの結果の同一性を確認した。今年度は、開発コードの更なる高速化リファクタリングと計算時間削減についてに取り組んだ。高速化リファクタリングについては、計算の中で最も計算時間のかかるLeast Angle Regression関数をJuliaで記述することにより、計算時間は期待通り最大で60倍高速化できることを確認した。 方程式発見の計算プロセスでは、対象となるデータ量を削減することにより計算時間を短縮するアイデアがある。データ量削減の方針としては、空間方向のデータ量削減と時間方向のデータ量削減の2通りが考えられる。時間方向には、非定常計算における100ステップのデータに対して、元のデータの1/2から1/33の範囲でデータを削減し、各データ数において発見された方程式の形を比較した。その結果、データ数が最も少ない1/33(3ステップ)の場合でも方程式の項の形が推定できることがわかった。しかしながら、係数の予測精度は若干低下する場合がある。これらの結果から、時間方向の削減により従来比で3 0倍の処理量の削減ができることがわかった。一方、空間方向のデータ量削減については、計算領域全体を10個の部分空間に分割して、それぞれの部分空間のデータのみを用いて方程式発見を実施した。結果としては、各部分空間のデータが最も合致する項の形が出現しているが、その項は元の方程式とは異なる場合があることがわかった。これは部分的な空間の現象だけを見ているので、元の方程式のサブセットではあるものの 、元の形式とは異なる表現型となる可能性があることなどの知見が得られた。また、移流項は推定しやすく、拡散項は推定しにくいという興味深い結果も得られ、更に分析を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していたコードの移植作業と性能評価については、予定通り終了した。ただし、実行環境について、ライブラリとの整合性などの理由により、正常動作しない場合があることも判明した。Juliaのアップデートに伴う要因も含まれるため、今後注意深く情報収集やテストを行いながら開発を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の応用として、風車の後流モデルの一つである精緻なアクチュエータラインモデルの計算結果に対して方程式発見を適用し、後流の状況を近似的かつ高速に計算できる後流の工学モデルやサロゲートモデルの発見に取り組む。 本研究では発見的なモデリングを行うが、項の生成・評価のアルゴリズムを詳細化することにより、候補となる項の組み合わせのうち非自明な解を枝刈りする効率的な手法の導入を検討する。次に、ノイズに関する検討を行う。シミュレーションにおいて利用する計算格子や計算スキームの違いによる解の違い、また、シミュレーション時と方程式発見時の項の評価スキームの違いはある種のノイズとして表れる。計算過程におけるノイズ混入は不可避であるため、ノイズが推定結果に与える影響を検討し、得られる結果の信頼性について調査する。 以上の検討と同時並行で並列処理に関する検討も実施する。方程式発見の計算過程は異なる遺伝子セットに対してはほぼ独立で計算できるため、並列処理の効率は非常に高い。しかしながら、遺伝的アルゴリズムの重要な処理となる遺伝子の交配や突然変異などのイベントを世代毎に処理する場合の並列処理法については、計算効率・精度・安定度を見ながら進めていく必要がある。また、並列処理時の各部分領域間の解の調停アルゴリズムを検討する。 結果の解釈においては、得られた項の形が形式的には異なっていても本質的に同じ項を表現する場合がでてくる。このような 表記と意味の同一性の解釈については、項の表現アルゴリズムと微分の連鎖率などを考慮したコード実装をしながら検討する。 これらの検討を踏まえて、風車の事例などでサロゲートモデルの探査を実施しその有効性を評価する。さらに、シミュレーションと同時に実施する方程式発見の手法についてもその実装を検討する。これらの取り組みを通して、方程式発見の技術開発および応用事例の創出に推進する。
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