研究課題/領域番号 |
22H03659
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長谷川 禎彦 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 准教授 (20512354)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 量子情報 / 量子確率過程 |
研究実績の概要 |
2022年度では,情報不等式によって,量子熱力学不確定性関係を新たな視点で解明する予定であった.2022年度では,Hellinger距離不等式との関連では,Loschmidt echoと呼ばれる量子系における不可逆性を表す量と精度の関係を明らかにした.この成果はPhysical Review E誌に採択された.特に,First passage timeと呼ばれる量子確率過程に対する量子熱力学不確定性関係を初めて導出している.また,熱力学不確定性関係と速度限界の関係については,エントロピー生成と動的活性の間の関係を明らかにした.エントロピー生成と動的活性は熱力学において重要な物理量となり,速度限界や熱力学不確定性関係で中心的役割を担う.この二つを統合し,統一的な不等式を導出し,Journal of Physics Aに採録された.また,計算物理で良く用いられるサンプリング手法を,非平衡熱力学の知見を用いることで改良した手法を提案した.具体的には,従来手法では確率的な方法を用いていなのに対して,決定論的な方程式に従うサンプリング手法を提案している.この論文はPhysical Review Eに採録されている.古典的な熱力学のみならず,相対論的量子力学におけるエントロピーに関する関係式も導出している.この研究では,Cavityと呼ばれる相鏡を加速させるシチュエーションにおいて,熱力学と同様の現象が起き,エントロピー生成が定義できることを明らかにした.この論文はPhysical Review Dに採録されている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目標であった,量子熱力学不確定性関係と統計的推定の関係について明らかにすることができ,論文誌に発表できた.また,当初想定していなかった点として,相対論的量子力学におけるエントロピー生成の関係式を導出することができた.これらを含めて,2022年度は査読付き論文誌に合計4報採択された.これらのことから,順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針としては,さらなる統計的推定理論の適用や,量子推定理論を非平衡熱力学に適用することを考えている.具体的には,量子状態の幾何的な性質に基づき,量子熱力学不確定性関係を導出することを考えている..特に,量子系における熱力学不確定性関係はまだ研究がほとんど進んでいない分野である.現在ある研究では特定のケースによって示されているが,幾何的性質を用いることで,一般的な系で成立する関係式を導出することができると考えている.
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