研究課題/領域番号 |
22H03684
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
秋山 泰 東京工業大学, 情報理工学院, 教授 (30243091)
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研究分担者 |
柳澤 渓甫 東京工業大学, 情報理工学院, 助教 (40866646)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | バーチャルスクリーニング / 化合物フラグメント / 化合物データベース / SBVS / ドッキング |
研究実績の概要 |
本研究では、近年の化合物データベースの急速な巨大化に対応するために、構造ベースのバーチャルスクリーニング (SBVS) を効率的に行うための新規手法を提案する。まず化合物間で重複する部分構造(フラグメント)を単位としたドッキングを実施し、それらの結果を効率的に再利用することにより、化合物を個別独立にドッキングするのではなく、大規模な化合物データベースから多段階の絞り込みを経て候補化合物を得る手法を開発する。公開ベンチマーク問題等を用いた性能評価も行う。 <2022年度までの進捗状況> 2022年度は、「フラグメントライブラリの作成」「フラグメントの相対位置から逆引きが可能な化合物データベースの整備」「データベースを活用したドッキング計算」について以下の成果を得た。 1)フラグメントライブラリの作成:内部自由度を持たないフラグメントに基づくライブラリに加えて、創薬や化学合成の観点も加味したライブラリの検討も進めた。前者はフラグメントに基づくドッキング計算の効率を最大化できるが、化合物の合成可能性などが十分に考慮できない恐れがあり、後者の創薬化学的な視点の考慮も今後は重要だと考えている。 2)フラグメントの相対位置から逆引きが可能な化合物データベースの整備:化合物データベース整備では、化合物立体構造の微差は吸収しつつも、フラグメントの相対配置等の条件を満たす化合物を高速に検索できるデータベース構成が必須となる。興味深いことに、フラグメント間の回転を考慮しない粗い格納の方が総合性能が良好という中間結果が得られている。 3)データベースを活用したドッキング計算:データベース側の開発と並行して、どのようなアルゴリズムでクエリを生成すれば良いかも検討した。可能なフラグメント配置群の選出について組合せ最適化に基づく手法も検討した。この成果については、国際論文誌 Entropy に論文が採録された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)実施計画に基づき、「フラグメントライブラリの作成」を実施した。研究分担者の柳澤がSpressoシステム向けに開発した手法を準用し、内部自由度を持たない化合物フラグメントのライブラリを独自に整備した。一方、創薬上の重要性や合成可能性をさらに改善することを目指し、化合物提供企業が定めたフラグメントライブラリの性質の調査も開始した。 2)「フラグメントの相対位置から逆引きが可能な化合物データベースの整備」では、単一の化合物からその化合物が持つ複数のフラグメントとそのフラグメントの全対に関して相対位置(3次元座標)と相対回転(軸回転角度)の算出を行い、逆引き計算も可能とした。データベース保管時の離散化による見逃しを軽減するため「ゆらぎ幅」も導入した。検索が相対回転情報に過度に鋭敏になることを防ぐために、回転情報を無視して距離のみを用いたところ、必要なprecisionを担保しつつrecallを高められることが判明した。 3)「データベースを活用したドッキング計算」では、多数のフラグメント相対位置情報から、タンパク質ポケット空間に適合するフラグメントペア情報を複数選択することで、データベース検索の正確度を高められる。イジングモデルで立体空間充填の組合せ最適化問題を効果的に解く手法を開発し、国際論文誌 Entropy に採録された。 なお、本研究課題はフラグメントベース・バーチャルスクリーニングが有用であることを前提としているが、当グループではフラグメントに基づくドッキング計算手法 REstretto を開発し、米国Scripps研究所が開発した AutoDock Vinaと同等の性能を示し、2022年に国際論文誌 ACS Omegaに採録された。フラグメントに基づく手法が有望であるとの前提は益々確度が高まっており、上述のように実装上の工夫も見出されるなど、本研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
1)フラグメントライブラリの改良 既知化合物を計算処理により分解したフラグメントでは、創薬上の重要性や合成可能性の保証などの面ではやや課題があることが判った。目的は異なるが化合物提供企業などがコストや合成可能性を考慮して定めているフラグメントライブラリを出発点とし、そこから条件を満たすものを選定し端点処理などを加えることにより、本研究に適したライブラリを構築できないかを検討する。 2)標的に対するフラグメントのドッキングの実施及びREstrettoとの接続 昨年度までに引き続き、本研究を進めるためのベンチマークとなる数種類の創薬標的タンパク質に対して、フラグメントデータベース内の各フラグメントと標的タンパク質のポケットとのドッキング計算を実施する。次に、高スコアを得たフラグメント単体またはフラグメントのペアに関して、3)で述べる逆引き法を活用して候補化合物を高速に選出し、REstretto(Yanagisawa 2022, ACS Omega)に引き渡すことによりバーチャルスクリーニングまでを実現する。REstrettoは当研究の成果として昨年度に開発したソフトウェアであり、これまで課題であったフラグメント計算結果の再利用について、独自の工夫により必要メモリ量を削減して実現したものである。 3)フラグメントの相対位置から逆引きが可能な化合物データベースの構築 上記2)における化合物の逆引きを可能とするため、独自の化合物データベースを整備する。ZINC等の化合物DBの一部について構成フラグメントの逆引き表を作るとともに、各化合物の代表的な立体配座を計算してフラグメントペアの相対位置に関する逆引きも可能とする。候補化合物に対する事前計算を積極的に利用しつつ、呼び出し側での処理との間で最も効率的な分担のバランスを見出していく。
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