研究課題/領域番号 |
22H03718
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
荒川 久幸 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (40242325)
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研究分担者 |
磯辺 篤彦 九州大学, 応用力学研究所, 教授 (00281189)
横田 賢史 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (00313388)
岡井 公彦 東京海洋大学, 学術研究院, 准教授 (00596562)
上嶋 紘生 東京海洋大学, 学術研究院, 助教 (10758288)
内田 圭一 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (50313391)
宮崎 唯史 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (70242328)
石田 真巳 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (80223006)
奥村 裕 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産資源研究所(塩釜), 主任研究員 (80371805)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | マイクロプラスチック / 劣化度 / 時空間動態 / カルボニルインデックス |
研究実績の概要 |
本研究は、海洋のマイクロプラスチック(以下MPs)の劣化度(カルボニルインデックス(以下CI)および粒径等)を調べ、浮遊の時間および海域における履歴を明らかにすることも目的としている。研究内容は、第一に日本沿岸(海域、海底、海岸)におけるMPsの劣化指標(CI)の空間分布をMPsの種類別、サイズ別に明らかにする。第二に生態系に取り込まれたMPsがどのように劣化するのか解明する。第三にMPsの劣化指標を基にして海洋の粒子拡散モデルからMPsの浮遊時間および経路を推定し、東アジア海域および北西太平洋海域でのMPsの流出起源を解明する。 第一の内容として、まず、赤外分光分析(以下FTIR)によるCIの測定は様々な手法が提案されている。それらの手法を試した結果、MPsのCIを求めるためにはSAUB法(Almond et al., 2020)が適していることを見出した。2022年度では、SAUB法を用いて、従来からサンプリングしている日本近海における海表面のMPs(約3000個)について、polyethylene (PE) およびpolypropylene (PP) のMPsのCIを測定した。MPsの性質(色および形状)とCIとの関係、粒子サイズとCIとの関係を検討した。これらの結果、測点ごとのCIと粒子サイズに負の関係があることを見出した。すなわち、大きなサイズのMPsの海域のCIは小さく、小さなサイズのMPsの海域のCIは大きかった。さらに微細なMPs (50-350 um; 以下SMPs)のCIを調べたところ、非常に高いCIを示した。このことより、海洋のMPsの劣化度はCIで評価できることが確認された。 第二の内容として、鶴見川河口で様々な生物相からMPsを採取しその取り込み状況の把握を行ったところ、甲殻類で比較的多かった。これは餌料(藻類)からの摂取と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一の内容として、2022年度の研究では、日本沿岸の海面、海水、海底のMPsを採取し、MPsの性質とCIをFTIRによって調べた。性質の計測項目はポリマータイプ、サイズ、形状および色とした。海面のMPsでは従来から採りためたものを再計測し、CIと各種性質との関係を解析した。これらの結果は論文として印刷公表した。また7月に日本海において航走し、表層・亜表層(水深4m)の微細なMPs(50-350 um)を含むMPsを採取、抽出した。これらのサンプルのMPs濃度、ポリマータイプ、サイズを分析中である。また気仙沼の底泥のMPsの採取を行い、そのSMPs濃度の分析を進めている。一方、大阪湾のコアサンプルからSMPsを取り出し、その分析及びCI計測の準備を行っている。同時に、Pb-210, Cs-137を測定することによりMPsの鉛直的(経時的)な濃度変化を把握するための試料の調整を行っている。さらに海岸でのMPsのサンプリング手法を決定するために、定量手法を検討している。 第二の内容として、鶴見川河口で様々な生物相(甲殻類、魚類、貝類、多毛類、藻類計 10 種)からMPsを採取しその取り込み状況の把握を行った。藻類への付着が非常に多いこと、藻類食性甲殻類で比較的取り込みが多いことが分かった。このことから、甲殻類への取り込みは餌料(藻類)からの摂取と考えられた。この内容は結果を取りまとめ、口頭発表(日本水産学会2023春季大会)を行った。またプラスチック汚染沿岸域の泥とPVCフィルムを混合して2および4カ月で振盪した結果、真菌用培地を用いて2カ月振盪した条件でフィルムの3%重量減少が確認された。重量減少した培地から27株のコロニーを単離していた。
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今後の研究の推進方策 |
第一の内容として、2023年度には、従来採りためたサンプルの内、微細な粒子に的を絞り顕微FTIRで赤外吸光を測定し、SAUB法でSMPsのCIを明らかにする。日本沿岸(東京湾、東海沖、日本海および三陸沖)の表層、亜表層のMPsを採取し、CI計測と性質に関するデータの整理を行う。海底のサンプル採取はすでに三陸および大阪湾で行われた。これらのサンプルのMPs濃度、CIを測定する。同時に大阪湾のコアサンプルではPb-210, Cs-137の計測から堆積年代を推定し、それらのMPsのCIと対応させて、底泥中でのMPsの劣化を解明する。日本各地の水産高校生の協力を得て、日本沿岸(沖縄、長崎、山口、高知、新潟、北海道など)の海岸のサンプル採取を行い、MPs濃度とCI計測を実施する。 第二の内容として、沿岸干潟域における各種生物相が取り込んだMPsが得られたことから、それらのMPsのCIの分析を行う。生物成育環境(底泥、海水)のMPsのCIとの比較から生物による劣化度の変化について検討する。またプラスチック汚染沿岸域からPE、PP、PSの分解菌を探索する。海中浸漬したPE、PP、PS、PVCフィルムから分解菌を探索するとともにプラスチック表面の劣化を評価する。 第三の内容として、海面、海水、海底、海岸のMPsの劣化指標(CI)を基にして海洋における劣化の経時的な変化を把握する。この結果と、MPsの海洋の粒子拡散モデルからMPsの浮遊時間および経路の推定を考え合わせることにより、東アジア海域および北西太平洋海域でのMPsの流出起源および海洋での挙動を解明する。 これらの成果は論文印刷、学会発表、および公開シンポジウムで広く社会へ公表する。
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