研究課題
大気中の人為起源の金属微粒子は、ナノから数ミクロンの粒子に多く含まれており、広範囲の環境や人の健康に影響を与えると考えられている。しかし、実大気中ナノ粒子に含まれる金属成分の動態には不明な点が多く、その含有量の粒子径依存性や気中動態、化合物形態などの物理化学特性はほとんど明らかにされていない。本研究では、離島である長崎県五島福江島や都市域である川崎など様々な環境下で実大気ナノ粒子を採取し、粒子径別の金属成分や水溶性イオン成分を測定した。金属成分のヒトへの影響を評価するために、国のモニタリングなどで一般的に測定されている酸分解法と、水溶性金属成分を測定した。酸分解金属元素では、Al、Fe、Znが主要成分であったが、水分散金属では金属元素の存在比が酸分解金属と異なっていた。さらに、水分散金属は、酸分解金属に比べて小粒径側にシフトしていること、金属元素の中でも有害性(発がん性、毒性)の高い成分がより小さい粒径の粒子に多く存在していることが明らかになった。さらに、福江で観測されたPM2.5中Fe安定同位体比は-0.56~-1.89‰であり、東アジア起源粒子の鉄同位体比は-0.5~-2.2‰であることから、東アジア起源であるものと考えられた。川崎で採取された試料中の鉄の化合物形態を推定するためにXAFS分析を行った結果、100nm以下の粒子中に含まれる鉄はフェリハイドライト、マグネタイト、フィロケイ酸塩主体のモンモリロナイト、Fe(II)主体の黒雲母からなり、2.5-20㎛の粗大粒子に含まれる鉄は、フェリハイドライト、マグネタイト、フィロケイ酸塩(Fe(III)主体のモンモリロナイト)であった。川崎で採取されたこれらの試料では、人為起源の Fe 種の寄与が大きいことが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
遠隔地と工業地域における大気微小粒子中に含まれる金属成分と水分散金属成分の粒子径分布の特徴を明らかにできた。
越境輸送による金属成分の時間変動を明らかにするため、長崎県五島福江島において、冬季-春季に大気微粒子を粒子径別捕集(6分画とPM2.5)を行う。捕集期間に合わせて、大気微小粒子の粒子径濃度分布の時間変動を計測し、超微小粒子の生成・変質・混合過程を調べる。これまでの観測結果をもとに、金属成分の粒子径別の経年変化などを明らかにする。また化学輸送モデルを用いて、金属成分の越境輸送の解析を行う。
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Journal of Hazardous Materials
巻: 466 ページ: 133328~133328
10.1016/j.jhazmat.2023.133328
Earth System Science Data
巻: 15 ページ: 1969~2007
10.5194/essd-15-1969-2023