研究課題
大気中の微粒子は、雲の氷晶の核(氷晶核)として働き、雲の放射収支などを変化させる。しかし、この過程についての科学的な知見は限られており、気候変動予測において大きな不確定要素となっている。この過程を解明するため、本研究では氷晶核に着目した新たな気候モデルを開発し、大気中の氷晶核の空間分布の推定を高度化する。そして、氷晶核が雲の放射収支などに与える気候影響の推定精度を向上させる。令和4年度は、氷晶核として働く各種エアロゾルを我々がこれまで開発してきた気候モデル(CAM-ATRAS)に導入し、それらの全球分布を計算可能にした。また、鉱物ダストについては、我々のこれまでの氷晶核観測によって、北極域で放出されるダストが、一般的なダスト(砂漠起源の粒子)と比べて非常に高い氷晶核能(氷晶核へのなりやすさ)を持つことを明らかにしてきた。本研究では、この観測に基づいて北極域で放出されるダストの氷晶核能の温度依存性を定式化し、気候モデルに導入した。そして、北極域で放出されるダスト特有の高い氷晶核能を考慮したモデル計算によって、それを考慮しない従来の計算と比べて北極域の対流圏下層の氷晶核数が100倍以上増加することを示し、北極域の様々な地点での氷晶核の観測結果をより良く再現することに成功した。これらの結果から、北極域で放出される氷晶核能が非常に高いダストが、北極域の夏季対流圏下層の氷晶核に対して支配的な寄与を持ち、北極域の下層雲における氷晶形成において重要な役割を果たすことを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
令和4年度は、我々がこれまで開発してきた気候モデル(CAM-ATRAS)を用いて、鉱物ダストの氷晶核能に関するモデル開発・改良などを行った。また、数値モデル計算を氷晶核などの観測データによって比較・検証した。これらの内容は、おおむね計画通りである。また、このモデルを用いて、北極域で放出されるダストが、北極域の夏季対流圏下層の氷晶核数の大部分を占め、北極域の下層雲における氷晶形成において主要な役割を果たすことを示した。これらの成果を地球物理学分野で権威のある査読付国際誌Geophysical Research Lettersに投稿し、受理された。このほか、主著論文2本、共著論文7本を査読付国際誌に投稿し、出版した。これらの理由から本課題はおおむね順調に進展している。
これまでの我々の研究では、エアロゾルの微物理特性や大気中での変質・除去過程などを詳細に表現・計算する気候モデル(CAM-ATRAS)を開発し、エアロゾルの空間分布や放射・雲過程との相互作用の推定などを高度化してきた。今後の研究においても、CAM-ATRASをベースとしたモデル開発・検証を継続する。まず、先行研究の室内実験・大気観測で得られてきた氷晶核能のデータを用いて、固体エアロゾル各成分の氷晶核能の温度依存性を定式化し、モデルに導入する。そして、このモデルを用いた全球計算を実施し、世界の様々な領域の地上観測、航空機観測、地上放射観測網、衛星観測を用いて、固体エアロゾル各成分の全球分布の検証を行う。また、我々が北極域のニーオルソンなどで継続的に行っている氷晶核能の長期地上観測を用い、気候モデルで計算される大気エアロゾルの氷晶核能の季節変動などを検証する。また、氷晶核が混合相雲の微物理特性や放射収支(放射強制力)を変化させる効果について、全球分布を推定する。これらは、固体エアロゾル全成分の氷晶核能を0~10倍の範囲で増減させた感度実験などを行い、それによる氷晶核数、雲の微物理特性、雲の放射収支の変化量を計算することによって推定する。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 5件、 査読あり 15件、 オープンアクセス 15件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 6件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
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