研究課題/領域番号 |
22H03723
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
布施 泰朗 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 准教授 (90303932)
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研究分担者 |
早川 和秀 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター, 総合解析部門, 部門長 (80291178)
山口 保彦 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター, 総合解析部門, 主任研究員 (50726221)
木田 森丸 神戸大学, 農学研究科, 助教 (70903730)
中村 正治 京都大学, 化学研究所, 教授 (00282723)
磯崎 勝弘 京都大学, 化学研究所, 准教授 (30455274)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 蛍光性溶存有機物 / 熱分解GC/MS / 湖底低酸素化 / 地球温暖化 / FDOMセンサー |
研究実績の概要 |
JFEアドバンテック社と蛍光性溶存有機物(FDOM)センサーの基本開発を完了した。FDOMセンサーの基礎特性を把握するため、実験室において水温、濁度、及びタンパク質様蛍光物質からの影響を評価した。その調査サイトである琵琶湖北湖の環境基準点(水深89m)にて鉛直方向におけるFDOMの水質プロファイルの観測を開始した。その際に水深40m-60mにおいてFDOM観測感度が著しく低下する現象が確認された。この現象は琵琶湖深水層域の中層付近に低FDOM層が存在する可能性示唆した。しかし、FDOMセンサーにノイズ的なものである可能性も否定できないため、再度JFEアドバンテック社にノイズ除去効果があるアース構造を追加して低FDOM層の存在の有無について検討を続けている。 熱分解GC/MSを用いて琵琶湖北湖DOM濃縮試料及び底質試料の化学特性解析法を検討した。発生ガス分析(EGA)法とマルチステップ熱分解(ms Py-GC/MS)法を組み合わせた評価法を確立し、底質中成分と湖底低酸素化の原因となる成分の抽出評価に成功した。また、DOMの適切な濃縮法も検討中であり、確立でき次第同法を適応して湖水NOMの総合評価を行う。 底質酸素消費速度(SOD)を測定するため、多連装小型培養装置を製作し、測定法の妥当性評価を実施している。現場で底質コアを採取直後からSODを測定することが可能であり、間隙水の状態を反映した解析も検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FDOMセンサーの基本開発は完了した。LED365±5 nmのLEDを励起光源とし、受光部の光センサーに波長カットフィルターなどを設置することにより高感度でフルボ酸様蛍光を選択できに観測できるセンサーとなった。フルボ酸標準物質で検量線を作成したところ、0.1mg/LのJHSS提供段土フルボ酸(Dando FA)の十分定量できる感度を有することが確認できた。また、水温に感度が依存することが確認され、低温になるとセンサーシグナル値が高くなることがわかった。水温変化させたときのシグナル値と濃度の関係は1次式で相関しており、補正可能であることが確認された。 EGA法で湖底底質表面において特徴的な変化を捉えることに成功した。m/z 95の糖類由来のサーモグラムに3つ極大の内、中央の極大部の変化が湖底直上溶存酸素と高い相関を持つことが確認された。多糖類が底質表面に未分解のまま存在するとき、湖底溶存酸素は枯渇している状態であった。湖底において準難分解の挙動を示す多糖類が湖底の溶存酸素の変化を支配している可能性が示唆された。また、EGA法で糖構造を持った準難分解成分を迅速に追跡できる方法を見出すことができた。DOMの濃縮は凍結乾燥と固相集出法(Bond Elute PPL)を組み合わせて行った。凍結乾燥で20倍に濃縮し、その後固相集出した結果、概ね良好な回収率(62-84%)を得ることができた。 オンサイトで迅速にSOD測定システムは、非接触型のDOセンサーと小型モバイル冷蔵庫の中に納まる多連装シリンダーで小容量コアを複数測定できるように構築した。小容量コアはマグネティックスターラーで攪拌も可能で均一な直上水のDO値を得ることができる。採取直後、30分程度からセッティングできるため、間隙水の影響を含む初期のSOD値と採取から2時間後からのSOD値を別途評価することも可能とした。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度はセジメントトラップ試料のEGA法及びmsPy-GC/MS法による解析を実施する。セジメントトラップは2022年度から係留実験を開始しており、その試料を解析する。また、2016年に採取した試料も保有しており、分析の最適化を先行して実施する。 FDOMセンサー、2023年秋から湖底係留実験を開始し、貧酸素水塊中のFDOM動態を直接連続観測する。また、深層水域中層に存在が疑われる低FDOM層について調査を続行する。 膜濃縮による分子量分画試料を研究分担者の早川、山口から提供を受け、EGA法及びmsPy-GC/MS法による分析及び、TMAH-Py-GC/MS法による解析実施する。ATR-FTIRによる濃縮DOM解析法を検討し、官能基毎の深水層鉛直方向、及び季節変化を追跡し、他の解析法で得られた情報と多変量解析を行う。 低酸素化による酸化還元電位に変化が腐植物質に活性ラジカル種を発生させる可能性について腐植物質水溶液のESR測定により検証する。酸化還元電位を大きく変動させたときのラジカル種と発生量を腐植物質の構造依存性を明らかにし、貧酸素水塊内でおこる有機物分解への寄与を見積もる。
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