研究課題/領域番号 |
22H03728
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小畑 元 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (90334309)
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研究分担者 |
則末 和宏 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (50335220)
岡 顕 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (70396943)
西岡 純 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (90371533)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 西部北太平洋 / 微量金属元素 / 黒潮 / 親潮 |
研究実績の概要 |
親潮・黒潮の生態系を維持するためのメカニズムの一つとして、植物プランクトンにとっての必須栄養素である微量金属の海洋における生物地球化学的循環を研究する。本年度は、国際GEOTRACES計画の一環として、2022年6月から白鳳丸KH-22-7次研究航海を西部北太平洋南北観測線において実施した。東経 155度において赤道域から北緯44度の亜寒帯域までの鉛直採水を行った。繊維索ケーブルにCTD多重採水システムを接続し、クリーン洗浄したニスキン-X採水器を24本搭載した。採取した溶存態用試料はクリーンエリアで加圧濾過し、酸添加して保存した。一方、全可溶態用試料は未濾過のまま酸添加した。また懸濁粒子試料も採取し、冷凍保存した。 海水試料中の溶存態微量金属元素については、キレート樹脂カラムで濃縮・分離を行い、高分解能誘導結合プラズマ質量分析計により測定する。本年度は、この方法を使って過去にサンプリングを行ったインド洋における海水中の微量金属元素(鉄・銅・亜鉛・マンガン・カドミウム・鉛)の分析を行った。ベンガル湾から東部インド洋におけるこれらの元素の鉛直断面分布を明らかにした。特にベンガル湾の溶存酸素極小層で特徴的な金属元素の分布が観測され、海洋内部の化学プロセスがこれらの元素の分布に大きく影響していることを明らかにした。また、東部インド洋における海水中の鉄と硝酸塩の鉛直分布をもとに表層への供給フラックスを計算したところ、これらの海域における大気を経由して輸送される鉄の降下量の重要性が明らかになった。 一方、海水中の微量金属元素の数値モデル化についても検討を行った。特に北太平洋の特徴的な亜鉛の分布が再現できる数値モデルを検討した。西部ベーリング海などの縁辺海から供給される亜鉛について、その影響を定量的に議論することが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年6月から、国際GEOTRACES計画の一環である白鳳丸KH-22-7次研究航海において、東経 155度および150度の南北測線の観測を行う予定であったが、原油価格の高騰により、白鳳丸航海の一つのLegが2023年度に持ち越されることとなった。しかし、2023年6月に十分な航海日数を確保できたことから、当初の予定通りの観測を実施できる目処がたった。 また、白鳳丸が新たに装備した非金属の樹脂繊維索ケーブルを使ったクリーン採水システムも順調に稼働し、東経 155度線において十分な海水試料を採取することができた。海水試料分析の速報によると、海水中の鉄に対して汚染のない試料を採取できており、当初の目的通りの試料を採取することができた。一方、2022年度は8月後半の海況が悪く、亜寒帯域での観測を十分に行うことができなかった。しかし、黒潮ー親潮混合域付近では十分に試料を採取することができた。2023年度に延期された航海においては、北太平洋亜寒帯の海水試料を採取する予定にしており、計画通りの海水試料を採取する予定である。 海水試料中の溶存態微量金属元素を分析するためのキレート樹脂カラム濃縮システム、高分解能誘導結合プラズマ質量分析計は問題なく稼働している。これらのシステムを使って得られたインド洋における微量金属元素分布には海洋科学的な一貫性があり、過去のデータと比較しても十分に質の高いデータと考えられる。このデータの解析結果についても十分な議論を行うことができた。また、粒子態の微量金属元素についても試料処理を開始できる状態となっている。数値モデルを用いた海水中の微量金属元素分布の再現も順調に研究が進められている。現在、観測結果との比較を行っているところである。 上記の進捗状況から、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度実施予定であった白鳳丸KH-22-7次研究航海の一部が延期されたことは予想外であったが、すでに全22予定観測点中、18点の観測を終えることができている。まだ北太平洋亜寒帯における観測が残っているが、当初予定の全ての観測を行うのに十分な観測時間は確保できており、研究の遂行には問題ない状況である。2023年度の航海時の海況を予測することはできないが、まずは引き続き西部北太平洋の観測準備を進めていく方針である。世界レベルのクリーン技術を駆使し、研究分担者と協力してサンプリングを実施していく。 海水試料の濃縮・分離分析システムも順調に稼働しており、海水の試料処理は進んでいる。また高分解能誘導結合プラズマ質量分析計も分析可能な状態を維持できている。2023年度は当初の予定通り海水試料の分析を進めるとともに、過去の研究航海で得られた海水試料の分析を同時並行で進めていく。東部インド洋研究航海で得られた海水試料については、分析結果をまとめていく。特に過去に観測があまり行われていないベンガル湾における微量金属元素の鉛直断面分布を明らかにし、その結果をまとめ、国際学術雑誌への投稿を目指す。海水中の粒子試料については、濃度が低く周囲からの汚染を受けやすいため、慎重に処理と分析を進めていく。一方、数値モデリングについては、より観測結果に近い物理場を利用し、微量金属元素分布の再現を目指して実験を行っていく。
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