研究課題/領域番号 |
22H03730
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
渡辺 誠 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (50612256)
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研究分担者 |
黄瀬 佳之 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (00818528)
高木 健太郎 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (20322844)
松田 和秀 東京農工大学, 農学部, 教授 (50409520)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | オゾン吸収 / 森林 / 樹液流 / フラックス / 多層葉群光合成モデル |
研究実績の概要 |
オゾンは森林に悪影響を与える大気汚染物質であり、適切な影響評価のためには樹木の葉の気孔から吸収されるオゾン量の評価が必要である。本研究では、樹木生理生態学的な推定法2種(樹液流速の測定に基づく推定と多層葉群光合成モデルによる推定)と、森林に設置された観測鉄塔を用いた微気象学的推定法2種(濃度勾配法による推定と潜熱フラックスに基づく推定)のそれぞれで、森林のオゾン吸収速度を推定し、比較・解析する。 樹液流速に基づくオゾン吸収量の推定では、センサーを作成し、対象木に設置して観測を開始した。しかしながら、調査サイトでナラ枯れが発生し、コナラ対象木が枯死してしまった。そのため同サイトに生育する常緑針葉樹のスギと常緑広葉樹のアラカシにも樹液流センサーを設置し、観測体制を整えた。多層葉群光合成モデルによるオゾン吸収量の推定では、対象木であるコナラは環孔材であり、切り枝による葉のガス交換測定が非常に困難だったため、まず測定が比較的容易なスギを対象に、ガス交換特性の林冠内鉛直分布を明らかにした。コナラとアラカシに関しては、葉の光合成酵素や色素の林冠内鉛直分布を調査した。それらの結果は、切り枝による葉のガス交換測定が最終的にできなかった場合でも、葉の光合成能力から森林のガス交換能力ひいてはオゾン吸収速度が推定できるようにするための基礎情報とする。 濃度勾配法によるオゾン吸収量の推定では、予定通り研究期間の開始直後から観測を始めた。本研究サイトでは上空(30 m地点)と林冠直上(23 m地点)におけるオゾン濃度の差が予想よりも小さく、通常の濃度勾配法では推定誤差が大きくなることが判明した。そのため、より大きな濃度差が得られる林冠濃度勾配法の適用に取り組んでいる。潜熱フラックスに基づくオゾン吸収量の推定では、計測機器(CO2センサー)の故障があったため、その修理と調整を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の調査においては、樹液流の計測に基づくオゾン吸収量の推定について、当初の予定通りセンサーの作成および観測の開始が勧められたものの、調査サイトにおいて発生したナラ枯れによって、コナラ対象木の枯死が進展の障害となった。しかし、一定量の樹液流のデータが得られたことや、他の樹種(スギとアラカシ)への展開を行うことで、より多様なデータを得ることができた。また、得られた成果の論文投稿も行うことができた。 多層葉群光合成モデルによるオゾン吸収量の推定に関しては、当初予定していたコナラではないが、同調査サイトのスギで十分な切り枝によるガス交換速度の測定が実施できたため、次年度に実施する多層葉群光合成モデルによるオゾン吸収量の推定を開始するためのデータを蓄積することができた。 観測鉄塔を用いた濃度勾配法によるオゾン吸収量の推定に関しては、順調に計測を開始し、より精度の高い推定法への着手など、予定よりも早い研究の進展が見られた。一方で、潜熱フラックスに基づくオゾン吸収量の推定に関しては、計測機器(CO2センサー)の故障があり、その修理に時間を要してしまったため、有効な観測を行うことができなかった。 以上のように、2022年度の調査は一部で遅れが出ているものの、予定よりも順調に進んでいる部分もあり、全体としては「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2年目においては、初年度から始めた調査を1年間継続し、各手法で推定されるオゾン吸収量の季節変化に関するデータセットを取得することを主な目的とする。また、1年目に十分な進展が得られなかった部分(コナラの樹液流測定、コナラおよびアラカシの切り枝による葉のガス交換速度の測定、観測鉄塔を用いた潜熱フラックスの観測)については重点的に取り組み、他の手法によるオゾン吸収量の推定結果と比較できるようにする。特にコナラやアラカシの切り枝による葉のガス交換速度の測定については、新たなアプローチが必要であり、そのために十分な計画を立てる予定である。2年目の後半に、各手法で推定されたオゾン吸収量の比較・解析をスムーズに開始するため、各推定から提供されるデータのフォーマットの統一などの調整をすすめる。得られた成果に関しては国内外の学会発表を行うとともに、原著論文として国際学術誌に論文を投稿していきたいと考えている。
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