研究課題
本研究プロジェクトでは、「鮮新世の末から更新世の初めにかけての大西洋子午面循環は、数百~数千年の時間規模で自発的に変動し、氷期には北大西洋周辺の大陸で氷床の崩壊を誘発した(すなわち、大陸氷床の崩壊は大西洋子午面循環の弱化や亜氷期を開始させる原因ではなく、結果であった)」とする独自の仮説を立て、その検証をアイスランド南方沖のガーダー・ドリフトで掘削・回収された海底堆積物(IODP Site U1314コア試料)のマルチプロキシー分析によって行う。2022年度には主に以下のことに取り組んだ。海氷の指標とする有機化合物IP25について、分析機器(ガスクロマトグラフ質量分析システム)を新たに導入して分析環境を整備し、分析条件の検討を行った。その結果、分析を予定しているU1314コア試料からIP25の検出が可能である事が確認できた。深層水の指標とする粘土鉱物については、約2400試料分の事前分析(XRDデータの取得)を終え、次の作業として予定しているピークフィッティング解析方法の改善に取り組んだ。海洋の表層環境の指標とする珪藻化石群集に関しては分類学的な研究を進めた。他の古環境分析(岩石磁気、アルケノン、ice rafted debris、有孔虫殻の同位体比などの分析)につていも並行して取り組み、鮮新世の末から更新世の初めにかけての北大西洋高緯度域の海洋循環と周辺大陸の氷床変動、およびに気候変動に関する新しいデータを収集し、それらの成果の一部は先行研究の結果と比較考察した。
3: やや遅れている
当初の計画では、2022年度は深層水指標の粘土鉱物の分析に集中的に取り組み、前処理(XRD分析)を終え、さらにピークフィッティング解析も全体の半分程度まで終わらせる予定であった。しかし、ピークフィッティングの解析方法の改善に取り組んだ結果、全ての試料について解析をやり直す必要が出てきた。そのため、プロジェクト全体の進捗状況はやや遅れる結果となった。今後は研究目的の達成のために分析を行う試料数を調整する必要がある。しかし、分析の精度自体はピークフィッティング解析方法の改善によって大きく上がったため、研究目的の達成という観点から判断すれば、プロジェクトは概ね順調に進展していると判断できる。
IODP Site U1314コア試料のマルチプロキシー分析を進め、鮮新世の末から更新世の初めにかけての北大西洋高緯度域の気候変動-海洋循環-大陸氷床変動の関係を明らかにする。主に取り組む分析は、Ice rafted debrisの計数とXRD解析(大陸氷床の崩壊の評価)、微化石分析とアルケノン分析(海洋表層環境の評価)、珪藻化石分析と有機化合物IP25分析(海氷の評価)、等温残留磁化解析と粘土鉱物分析(海洋深層水の評価)、底生有孔虫化石の同位体比分析(大陸氷床と海洋深層水の評価)である。このうち粘土鉱物に関しては、現在までの進捗状況に述べた通りピークフィッティング解析をやり直す必要があり、予定よりも遅れている。今後は、解析の精度を優先し、分析試料数の調整を行う。今年度から本格的に取り組む有機化合物IP25分析については、二人の共同研究者(研究分担者)が各々の所属機関の分析機器を用いて効率的に分析に取り組む。他の分析については、プロジェクト全体の進捗状況と研究目的の実現性を判断しながら分析の調整を行う。各種の分析の成果は気候-氷床モデルの観点からも検証する。研究成果は学会で積極的に公表し、年度末には本年度の研究成果を総括することで研究計画全体の見直しを行う。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件)
Diatom
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