研究課題/領域番号 |
22H03736
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
竹中 規訓 大阪公立大学, 大学院現代システム科学研究科, 教授 (70236488)
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研究分担者 |
藤井 佑介 大阪公立大学, 大学院現代システム科学研究科, 准教授 (90780099)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 雪氷化学 / 光化学反応 / 対流圏オゾン / 氷中の反応 / 臭素 |
研究実績の概要 |
(I) 凍結中や氷の中の化学反応及び(II) 雪氷からの大気への気体の放出では、H2O2とBr-の反応による臭素の生成を詳細に調べた。初期濃度、pH、凍結放置時間などの依存性を調べた。溶液中ではこれらは反応せず、凍結によりBr2生成反応は進むが、融解によこのBr2はH2o2と反応してBr-に戻るため、数日放置することによるBr2の放出量により反応を評価した。初期濃度は5 mMと1 mMで3日間で10%程度のBr-の減少が見られた。pHは低pHの時に放出量が多かった。凍結時間については初めの24時間でほとんどが揮散し、その後はほとんど減少が見られないことがわかった。また、一度凍結した試料を再凍結した場合に、Br2の生成が観測されない場合があり、氷の履歴と化学反応に何らかの関連があることがわかった。 凍結反応により生成したBr2を検出するために、過酸化水素は反応するが臭素と反応しないと考えられる二酸化マンガンを含む水中で氷を解凍することで臭素の検出を試みたが、臭素の検出は出来なかった。また、凍結試料の吸光度を測定したが、再現性が得られなかった。さらなる検討が必要である。Br2の放出量については現在研究を行っている段階である。 (III) 雪氷中の光化学反応では、氷中における硝酸の光分解反応は、生成する気体成分がNO:NO2:HONOが0:2.6:1であった。南極で得られた気体成分はNO:NO2:HONOが2:0:1であり、実験室とは異なる結果であったことがわかった。これは南極の氷の多重反射の回数が実験室とは比較できないほど多く、光化学反応が効率よく進んでいることを示している。この評価を実験室で明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
凍結中のH2O2とBr-の化学反応については、概ね順調に進んでいる。ただし、氷の生成履歴で反応が起こらない可能性が見られ、これが正しければ、これまでに報告されていない現象であり、氷の科学に新たな知見が加わる。雪氷からの大気への気体の放出については、すでにBr2として気体が放出されることを確認しており、初期条件の違いによる放出量の違いを現在研究している段階である。氷中のBr2濃度測定については、1年目は成功しなっかた。凍結中のH2O2とBr-の化学反応の詳細な研究にもこの測定は重要であり、2年目の前半で集中して検討する。 雪氷中の光化学反応では、気体の窒素酸化物の測定を行い、南極との違いを見出した。これは実験室と南極の雪試料で多重反射の回数の違いによるものと推定している。この点で進展が見られたと言える。2年目は実験系を工夫し、この多重散乱の違いを評価できる実験装置を作製し実験を進めていく。 雪中の窒素酸化物の挙動で2年の新たな情報を得た。1つは、氷の結晶系の違いでNO2から硝酸生成量に差があるとの情報、1つは、別の研究テーマによりウルトラファインバブルの存在で酸化反応速度に違いがみられ、凍結しても、ウルトラファインバブル自体は反応相手がいない限り無くならないことがわかった、自然水にもウルトラファインバブルが存在している可能性が示唆され、凍結濃縮により反応が進む可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
(I) 凍結中や氷の中の化学反応では、まず、氷中のBr2の検出方法を確立する。これまではBr2の気相への揮散量で反応を評価していたが、どの程度反応が進むかは、直接生成物濃度を定量することでしかできない。まずは二酸化マンガン中の溶解を再度挑戦する。前回は氷全体を溶解させていたが、これでは内部で溶解が進みBr2とH2O2の反応が進行している可能性がある。少しずつ削りながら融解させることで、Br2とH2O2より先にH2O2とMnO2の反応が進むようにする。また、同様に削りながらの融解であるが、臭素の測定法であるジエチル-p-フェニレンジアミン溶液への添加を試みる。氷中のBr2測定法を確立したのち、再度反応条件の検討を行う。さらに、冬季に自然雪中のBr2及びH2O2の濃度測定を行う。 (Ⅱ)雪氷からの大気への気体の放出では、反応により生成した臭素ではなく、過酸化水素を含まないBr2の氷からのBr2の揮散を詳細に調べる。その結果をもとに極域研究の研究者と意見交換を行い、南極や北極でのサンプル採取を依頼する。 (III) 雪氷中の光化学反応では、新たに作成する反応容器を用い、通気しながらガス状生成物の分析を行う。また、UV光の反射条件を変化させ、生成する気体組成の違いを調べる。さらに北海道において、雪氷表面から日中に放出される窒素酸化物の測定を行う。また、国内の清浄地域で雪の中の太陽光スペクトルを測定し、雪中の光化学反応の効率を評価する。 以上の研究以外に、1年目の研究や情報収集で得られたテーマとして、NO2と氷の相互作用による硝酸や亜硝酸生成を実験室内及び屋外調査を行う。また、余裕があれば雪中のウルトラファインバブルの測定や、実験室で生成させたウルトラファインバブルを含む人工雪中の窒素酸化物の反応を調べ、研究を広げる予定である。
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