研究課題/領域番号 |
22H03745
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
塩谷 文章 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, ユニット長 (10627665)
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研究分担者 |
白石 友一 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 分野長 (70516880)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | DNA複製ストレス |
研究実績の概要 |
がんドライバー変異に起因する高度なDNA複製ストレスが、ゲノム不安定化を促進し、がんの発生を加速することが示唆されている。正常細胞では過剰なDNA複製ストレスに対して、細胞老化や細胞死を誘導し、発がんバリア機構が発動するが、同時に選択的圧力の下で生き残る「がんの起源細胞」を生み出すことである。今年度は変異型KRASG12V発現肺線がんモデルにおいて得られた、ATR発現上昇が細胞の形質転換を促進するモデルを用いてKRASG12V発現によるゲノム動態解析からDNA複製ストレスの原因を検証した。KRASG12V発現に伴うヘテロクロマチン領域のマーカー(H3K27me3)を免疫染色法によって解析したところ、その上昇が認められ、かつその上昇は転写阻害剤(DRB)によって抑制されることを見出した。また、RNA発現解析を行い、転写抑制剤によって変動するRNA種を同定したところ、H3K27me3のChIP-seqシグナルが高い遺伝子群に発現の変動が認められた。このことは元来ヘテロクロマチン化され、転写が抑制されている遺伝子群がKRASG12Vによって発現が促進され、これを抑制するためにH3K27me3によるヘテロクロマチン化のフィードバックが生じる領域がDNA複製ストレスを引き起こす障害要因となることが示唆された。次にATR-PrimPolによるDNA複製ストレス耐性制御機構を明らかにするため、PrimPolのリン酸化解析を行なったところ、KRASG12Vの発現下でPrimPolのSer255のリン酸化を同定した。さらにPrimPolによる再プライミング活性はATR阻害剤及びChk1阻害剤によって抑制されたことから、DNA複製ストレス下におけるATR-Chk1経路に依存的にPrimPolが活性化することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R5年度はコロナ禍の影響による研究の遅れの大部分を取り戻し、予定していたDNA複製ストレスの原因や複製ストレス耐性機構に関するPrimPol制御機構に関する実験を進めることができた。現在DNA複製ストレス耐性機構によるゲノム不安定性誘発解析を進めており、当初の予定通り研究を遂行しうる。
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今後の研究の推進方策 |
申請者は変異型KRASG12V発現肺線がんモデルにおいて得られたクローンがATRを高発現すること、またATR-PrimPol依存的にDNA複製ストレス耐性機構がKRASG12V形質転換を促進するモデルを有している。本年度はKRASG12V発現によって誘導されるATRの発現亢進メカニズムについて、mRNA・タンパク質安定性、miRNAの関与について検証する。また、KRASG12V発現条件下において転写依存的なヘテロクロマチン領域がDNA複製ストレスの原因であることを見出していることから、DNA複製ストレス発生領域とPrimPol依存的な再プライミング領域の相関、さらにはこれらの領域がゲノム異常の発生領域となりうるかどうかを検証する。ヘテロクロマチン領域のマーカーとしてH3K27me3、PrimPol依存的複製の結果生じるssDNAを再プライミング領域マーカーとし、Proximity ligation assayを行う。また、KRASによって形質転換したクローンの全ゲノム解析を行い、SNV、SV、CNV、変異遺伝子等の解析を行い、形質転換後のゲノム不安定性について解析する。昨年度のRNA発現解析結果を用い、転写抑制剤によって変動するRNA転写領域(ヘテロクロマチン領域)とゲノム異常発生領域との相関解析を行う。さらに昨年度同定されたpPrimPol(Ser255)に対するウサギモノクロナール抗体の作成を試みる。
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