今後の研究の推進方策 |
浸透性農薬FPN(フィプロニル)は,農薬,ペットのノミ・ダニや室内のアリやゴキブリの駆除剤として使用されているフェニルピラゾール系の殺虫剤である.FPNは昆虫においてはGABA受容体への結合を阻害し,神経の過剰興奮を引き起こすが,γ-アミノ酪酸(GABA)受容体への親和性には選択性のあることから,哺乳類に対しては安全とされてきた.GABAは,中枢神経系に広く分布する抑制性伝達物質であり,GABA受容体に結合し,様々なシグナル伝達を調節する.神経細胞のGABA受容体への結合は,興奮を抑制し,精神を安定させる作用がある[Fujibayashi et al., 2008].しかし現在,マウスやラットへの神経毒性,肝毒性,生殖毒性,内分泌機能攪乱[De Oliveira et al., 2012; Leghait et al., 2009; Ohi et al., 2004]などが次々と報告されており,FPNのヒトを含む哺乳類への安全性について懸念が高まっている.さらに,FPNは体内では主にスルホン体のフィプロニルスルホン(FPNS)に変換される.FPNSはFPNと同様にGABA受容体を攪乱するが,FPNSの方がはるかに長く体内に滞留し,脳のGABA受容体に対する親和性も大きいことが示唆されている[Suzuki et al., 2021, Zhao et al., 2005].近年,農薬使用量増加に伴い,自閉症スペクトラム障害,注意欠陥・多動性障害(AD・HD),学習障害を示す子どもが急増しており,それらには相関関係があることが証明されている[Roberts et al., 2019].しかし,これらの事例はネオニコチノイド系農薬によるものが多く,FPNに関する研究報告は少ない.最終年度では,FPNにも着目し,胎子期,新生子期のFPN曝露による継世代発達神経毒性を検証する.
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