研究課題/領域番号 |
22H03756
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 公益財団法人レーザー技術総合研究所 |
研究代表者 |
染川 智弘 公益財団法人レーザー技術総合研究所, レーザー計測研究チーム, 主任研究員 (00508442)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ライダー / ラマン散乱 / 海中モニタリング |
研究実績の概要 |
日本の領海・排他的経済水域は国土面積に比べて12倍程度と広く、海底鉱物資源・メタンハイドレート掘削、CO2を海底地層に圧入して大規模削減を目指すCCS、石油などのエネルギー資源を輸送する海底パイプラインなどの有効な海底利用が実施・計画されている。海底開発では資源探査手法だけでなく海洋生態系・環境への影響評価が必要とされているが、現状の採取・採水測定では頻度とエリアに限度があり、海中での効率的なモニタリング手法の開発が必要である。そこで、安全で有意義な海底開発に貢献するために、レーザーを用いたリモートセンシング技術であるライダーを利用した効率的な海中モニタリング技術を開発する。水中のガスや油などのラマン散乱信号の2次元断層像を深さ方向に連続的に取得し、対象物質の濃度を3次元マッピングする水中フラッシュラマンライダー技術を開発し、効率的な海中モニタリングを目指している。 R4年度は水の透過率が高い波長532 nmのレーザーを焦点距離200 mmのレンズで拡散照射し、水・油のラマン信号画像の取得が可能なフラッシュラマンライダー装置を開発し、水中伝搬距離5 mに設置した水中油の可視化に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現有の技術シーズである一般的なTOF方式の水中ラマンライダー技術を発展させ、R4年度は効率的な水中リモートセンシングが可能なフラッシュ方式のライダー技術を開発した。フラッシュ方式ではカメラ撮像のように、カメラの視野内にレーザーを拡散照射することによって得られる2Dイメージの取得時間を時間的に掃引することで3Dイメージを撮像する手法である。 水中フラッシュラマンライダーは長さ6 mの長水槽中に設置した油を可視化することで性能を評価した。レーザーは水の透過率が高い波長532 nmのパルスレーザーであり、焦点距離200 mmの凹レンズで6 mの長さの水槽中に拡散照射した。キャノーラ油を入れた蛍光セル(光路長:5, 10, 20 mm)を水中伝搬距離5 mの位置に設置した。ラマン散乱光は、波長532 nmのエッジ・ノッチフィルターでレイリー光を除去したのち、油、水のラマン波長であるそれぞれ628,649 nmの干渉フィルターで測定波長を制限し、ゲート機能付きのICCDカメラで撮影した(測定間隔:3 ns、ゲート幅:5 ns)。画像撮影の遅延時間をコントロールすることで、5 mの位置での油、水のラマン画像の取得に成功した。また、水と油のラマン信号画像の比を取ることで、定量評価にも成功し、検出限界は油の厚みで0.27 mmであることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目標であったフラッシュラマンライダーによる水中油の可視化に成功したことから、今後は海上観測を見据えた可搬型のフラッシュラマンライダーシステムを構築するとともに、グレーティング方式によるハイパースペクトル型フラッシュライダー光学系を検討する。 現有の30 cm角、長さ6 mの長水槽では水深や距離などが制限されることから、大型の実験水槽や実際の海上での実証試験を計画している。そのため、現状のシステムを可搬型のシステムに改良する必要がある。また、油の可視化に成功したことから、水中のCO2などのガスの可視化の検討も進め、本手法の適用範囲を広げたい。 R4年度に開発したフラッシュラマンライダーはカメラの前の干渉フィルターを取り換えながらラマン画像を得るチューナブルバンドパスフィルター方式であったため、それぞれの油、水の観察画像は同時刻ではないという欠点がある。実際の油の漏えいなどを可視化する際には、レーザー強度のふらつきや空間分布の不均一さを水のラマン信号画像で校正する必要があるために、水、油のラマン波長などの多波長での同時画像取得が望まれる。そこで、グレーティングを用いたイメージング分光器を利用したフラッシュラマンライダー光学系を検討し、可視化性能の向上を目指す。
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