研究課題/領域番号 |
22H03787
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
根岸 淳二郎 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (90423029)
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研究分担者 |
三浦 彩 北海道大学, 地球環境科学研究院, 特別研究員(RPD) (20930118)
早川 裕弌 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (70549443)
渡辺 幸三 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (80634435)
三宅 洋 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 教授 (90345801)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 河川生態系 / 河床間隙水域 / DNA / 河川管理 |
研究実績の概要 |
本年度は、北海道東部札内川にて集中調査地を設け、以下の4つの項目を明らかにした. 第一に、環境DNAを用いた間隙水域の生態系情報収集において、種から群集の把握へと技術の汎用性を高めた.間隙域のスペシャリストである種を4種特定し、トビケラ目の一種については、ミトコンドリアDNAのCO1領域のDNA配列に基づく種特異的プライマーを開発した. 第2に、間隙性の水生昆虫2種(カワゲラ目2種)に対してその食性を判別し、間隙域の食物網の影響構造を可視化するために体組織の炭素・窒素安定同位体比解析を行った.過去の計測から得られている2種の潜在的な餌資源(付着藻類、落葉リター、その他無脊椎動物種)の安定同位体比分析の値を考慮した混合モデルの結果からは2種の餌資源の差異は検出できなかった. 第3に、ダム下流河川環境復元のために実施されたフラッシュ放流の前後を含む複数の季節(夏季、秋季、春季)において採取した間隙動物相の群集解析および一部において同時採水した環境DNAのメタバーコーディング解析を引き続き実施した.浅い間隙域に生息する種が侵食・運搬される土砂と共に流下し再度定着する詳細な動態と過程を解明した.また、河川の大型水生無脊椎動物相の約20%程度が砂礫堆下間隙域の動物相により説明された.さらに、環境DNAのメタバーコーディング解析におけるプライマーの改良と最適条件設定を行い、無脊椎動物群集の全体像がより詳細に把握できるようになった. 第4に、歴史的な猛暑となった環境下で熱赤外センサーなどを搭載したUAVによる地形・水温測定を現場でのロガーによる直接水温計測と同時に行った.水温の微小変化と間隙域および河川地形の関係が、小スケール高時間解像度の連続データと広域スケール高空間解像度のスナップショットデータの両視点から得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時の計画に従って、各種測定が実施できている.一点、安定同位体比分析の値を考慮した混合モデルを用いた手法で間隙に生息する2種の餌資源の差異は検出できなかったことは予想外であった.本2種に対しては、前年度に胃内容物に対して真核生物全体に対応したプライマーを用いてメタバーコーディング解析を行っており、2種が動物性餌資源への依存度の点で異なることが示されている.したがって、両手法を同時に相補的に用いることで食物網を解明できる可能性が示された.間隙域群集に対しての環境DNAメタバーコーディングのプライマーの有効性が強く示されたことは極めて重要である.その中で、これまで幼虫の生息地が特定できていない(おそらく物理的な直接採取できる1メートル程度の垂直深度よりも深い場所に生息している)種のDNAを検出することができた.このことは本手法でこれまで得られなかった生物多様性を把握できる可能性を示している.洪水への間隙域の群集応答解明などを通して群集間隙域の無脊椎動物の空間分布情報が定性的に理解できたので、間隙域生態系の構造や評価手法に関わる概念的な整理を行うことが容易になった.今後の研究展開に大きく寄与する成果である.論文発表による成果報告が遅れているので、次年度にこの点は注意して進める必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
各サブテーマの研究活動を以下のように進める、また、最終年度であるので成果の総括を行い学会発表・論文発表に努める。 第一に、間隙動物群集の体組織の直接的なメタバーコーディングを実施しており、環境DNA手法の技術確立に加えて、群集カクテル方式(直接的な群集採捕とその組織メタバーコーディング解析)による間隙生態系把握手法の有効性を検証する.また、環境DNAメタバーコーディング解析を秋季環境下でも実施し、季節による群集把握能力への影響を把握する.秋季には多くの種が水生幼虫ステージで河川内に生息するため、群集特性把握能力は夏季より高いと予想する. 第二に、間隙域スペシャリスト胃内容物のメタバーコーディングに関しては、測定数を3種に増やし、個体数を各10-20個体と増やす.また、無脊椎動物多様性把握に適したプライマーを用い、動物食と判別された内容物の種レベルでの把握を行い、食物網構造解明を試みる. 第三に、UAV取得データおよび現地水温観測から地下水の河川水への流出および河川水の間隙域への流入が特定された部位で、環境DNA定量PCR分析による間隙域スペシャリストの個体数推定を行う.これを通して、生活史ステージ移行(羽化による陸域への離脱や産卵による河川回帰および成長)の評価における環境DNA手法の有効性を試みる.
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