今後の研究の推進方策 |
研究計画調書に記載した実験2を実施し、人口推定課題を用いた表現フレームに関する推論を用いて、TD者が示す認知バイアスをASD者は示しにくいという仮説を実験的に検証する。人口推定課題とは「2つの都市A,Bのうち人口が多い方はどちらか」を問う課題である。TD者を対象にした先行研究では、選択肢として提示された2都市のうち、再認 (recognize) できる (Gigerenzer & Goldstein, 2002) 、またはより馴染み深い (familiar) (Honda, Matsuka, & Ueda, 2017) 都市を「人口が多い」と考えるヒューリスティックを用いてTD者は回答することが知られている。興味深いのは、そのような再認や馴染み深さを手がかりとした単純な方法でも、多くの場合に正確な推論が可能なことである。さらに、「2つの都市のうちどちらの方が、人口が多いか」という表現(larger frame)で回答させる場合と、「2つの都市のうちどちらの方が、人口が少ないか」という表現(smaller frame)で回答させる場合とでは、あまり一般的でない後者の表現(smaller frame)で聞かれたときの方が、再認、あるいは馴染み深さというヒューリスティックが利用されにくいことが示されている (McCloy, Beaman, Frosch, & Goddard, 2010)。フレームによってヒューリスティックの利用頻度が変わるというTD者が示す上記の傾向を、ASD者は示しにくいことを実験的に検討する。実験を通して、TD者は表現フレームの影響を受け、一般的でないsmaller frameよりも一般的なlarger frameで聞かれた場合の方が、正答率が高く、反応時間も短いのに対して、ASD者では両者に差がないことを示す。
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