研究課題/領域番号 |
22H03935
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神保 泰彦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (20372401)
|
研究分担者 |
榛葉 健太 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (80792655)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 脳神経 / 細胞・組織 / 神経工学 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(Alzheimer's disease; AD)は,その典型的な臨床症状である認知や記憶の障害が発生するよりもかなり前の時点で原因となる脳内の変化が始まっていると考えられており,早期診断手法の確立,治療方法の開発が急務である.アミロイドβ(Amyloid β; Aβ)の蓄積が神経回路の興奮/抑制バランスを崩し,結果として生じる異常な活動の神経毒性がシナプス伝達の阻害,神経細胞死につながるという仮説をin vitro系を利用した実験により確認,薬理的な抑制手法の探索を行なうことが本研究の目的である.健常者,AD患者由来ヒトiPS 細胞(AD由来はPreselinin-1 A246E 変異)から分化誘導した培養神経回路を作成してその電気活動を比較,早期に発生する異常な活動の検出を目指す.計画初年度である本年度は,電極付細胞培養皿(High-Density MicroElectrode Array; HD-MEA,26400個の電極が集積化されており,1024点を選択して神経活動計測を行なうことができる)上にiPS細胞から分化誘導した神経回路を形成する条件の探索を実施した.基板表面のコーティング(Laminin, Laminin511),培養液(Neural maintenance XF medium (Axol Bioscience),B27plus (ThermoFisher),Brainphys (STEMCELL)),DAPT添加の有無(Notchシグナル阻害による神経分化の促進)の条件について,免疫組織化学染色(Nestine, NeuN)により評価した結果,Laminin/Brainphys/DAPT添加の条件(播種時のみB27, N2 Supplement添加培地を使用)が最適と判断した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画初年度である2022年度は,高密度電極アレイ(High-Density MicroElectrode-Array; HD-MEA)基板上にヒトiPS細胞から分化誘導した神経回路を形成し,その自発電気活動計測を実施することに注力した.HD-MEA は26,400個のマイクロ電極を集積化した細胞培養皿であり,1024点を選択して細胞外電位記録ができる.ヒトiPS細胞は,Axol Bioscience社のAX0019(健常者由来),AX0114(前駆体(Amyloid Precursor Protein; APP)からAβを合成する過程に関与する酵素の1つである Preselinin-1 A246E の変異を有する)を使用した.基板表面のコーティング(Laminin, Laminin511),培養液(Neural maintenance XF medium (Axol Bioscience),B27plus (ThermoFisher),Brainphys (STEMCELL)),DAPT添加の有無(Notchシグナル阻害による神経分化の促進)の各条件を組み合わせて細胞培養を行ない,得られた神経回路について形態(位相差顕微鏡観察)及び免疫組織化学染色(幹細胞のマーカとしてNestine, 成熟ニューロンのマーカとしてNeuNで標識)による評価を行ない,Laminin/ Brainphys/ DAPT添加の条件(播種時のみB27, N2 Supplement添加培地を使用)が最適という結果を得た.さらに,HD-MEAによる自発活動計測においても上記形態観察と整合する結果が得られた.HD-MEA上にヒトiPS細胞由来培養神経回路を形成する条件が確立され,次の段階に進む準備が整ったと判断している.
|
今後の研究の推進方策 |
健常者,AD患者由来ヒトiPS 細胞から分化誘導した培養神経回路についてその電気活動を比較,早期に発生する異常な活動の検出することが次の課題である.以下2つの視点から検討を進める. 1. 低酸素状態における自発神経活動の比較 ADの神経細胞は低酸素状態に対する耐性が低いことが報告されている(Mattson 2000).この知見に基づき,低酸素負荷条件における自発神経活動を記録し,健常者由来,AD患者由来の比較を行なう.低酸素負荷として,培養容器環境中に酸素吸収剤を挿入し,一定の酸素濃度に達した時点で一定時間保持,その後通常の条件に復帰させるというプロセスを通して自発電気活動の変化を観測する.最初に予備実験として,安定した培養条件が確立されているラット大脳皮質初代培養系を利用して適切な(自発活動の変化が誘導されかつ負荷を除去した後は回復が認められる)低酸素負荷条件を調べる.得られた最適な低酸素負荷条件を健常者由来,AD患者由来培養神経回路に適用し,自発電気活動の時間変化を記録する.
2. Aβのアストロサイトへの作用を介するプロセスの寄与 Aβのアストロサイトα7nAChRへの結合の結果として生じるアストロサイト内部のCa2+濃度上昇をCa2+感受性の蛍光指示薬 Fluo-8 を利用したimagingで確認し,Ca2+濃度上昇の結果として生じるGlu放出に対する神経活動変化の記録を試みる.ついで,アストロサイトに Channel Rhodopsin 2(ChR2)を導入して光刺激を印加,アストロサイト内部のCa2+濃度上昇,神経回路活動の変化を観測してAβ投与によって引き起こされる現象と比較することにより,Aβのアストロサイトα7nAChRへの結合が誘起する現象の神経回路活動変化への寄与を明らかにする.
|