研究課題
器官形成において組織変形とWntパターニングの相互作用が重要であるが、力学的摂動がWnt関連分子の局在化に与える影響は不明である。また変形によって器官形成能や効率を組織・器官レベルで制御する研究はこれまでにない。そこで、再生の全過程で組織変形やWnt関連分子の発現が追跡できるヒドラのオルガノイドに着目し、再生の初期過程で力学的拘束によって組織を大規模に変形し、Wnt関連分子のパターニングや形状揺らぎの時間発展に与える影響を定量解析する。さらに、再生能力の有無の制御や再生能力の獲得・喪失を制御するなどといった再生を制御する新たな技術を開拓する。本年度の業績としては、(a) ヒドラオルガノイドの力学的拘束実験の最適化、(b) 力学的拘束がヒドラの再生能力に与える影響の定量評価、(c) 力学的拘束によって一見再生できないヒドラが再生能力を獲得し、成体へと導くことに成功したことが挙げられる。(a)については当初マイクロ流路デバイスの狭窄部内にヒドラオルガノイドを保持して力学的拘束する予定であったが、再生の再現性がよくないため様々な内径のガラスチューブを用いて再生の促進する最適な条件を見つけた。この条件を使って(b)では初期体軸の生成時間と初期頭部形成時間が著しく早まることを定量的に突き止めた。さらに、 (b)で得られた力学的拘束による再生効率の向上という結果を基に(c)ではアクトミオシンやWntシグナル経路を阻害して再生できない条件にも関わらず力学的に拘束することで正常に再生することが確認できた。また研究準備段階では計画していなかったヒドラの体軸形成時に行われる細胞外基質のリモデリングがWnt/β-cateninシグナリングによって誘発されるというテーマを見つけ、その成果を論文として発表した(Veschgini, Suzuki, et al., iScience (2023))。
2: おおむね順調に進展している
本研究の第一段階(当該年度)ではヒドラオルガノイドの力学的拘束実験の最適化と力学的拘束がヒドラオルガノイドの再生能力に与える影響の定量評価を計画した。ヒドラオルガノイドの力学的拘束の最適化については再生の再現性がよいガラスチューブを用いて様々な条件の中から最適な実験条件を確立した。再生能力の定量評価については、初期体軸及び初期頭部の形成時間を抽出する解析システムを構築し、最適化した実験条件で力学的拘束の影響を定量的に評価することに成功した。さらに、本研究の第三段階として計画しているヒドラオルガノイドの再生能力の制御の実験にも着手し、おおむね順調に進捗していると言える。
実験の基礎となる力学的拘束の最適化を終え、その実験条件を用いることで初期体軸の生成時間と初期頭部形成時間が著しく早まることを定量的に突き止めたため、今後はヒドラオルガノイドが力学的拘束によって再生が促進するメカニズムの解明を目指す。具体的には力学的拘束に伴う変形がWntの発現とパターニングに与える影響を再生過程の各時点で測定・観察する。これに並行して、当該年度で得られた一見再生できないヒドラオルガノイドが力学的拘束によって再生能力を獲得した実験について定量的に評価する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
iScience
巻: 26 ページ: 106416~106416
10.1016/j.isci.2023.106416