研究課題
炎症性腸疾患の新たな治療法として幹細胞を用いた再生医療が注目されている。本研究では、磁力による遠隔操作が可能で、細胞を目的地に輸送して配置できるマイクロマシンを用いて、腸の病変部に細胞を配置する技術を確立し、腸炎モデルマウスの腸内での多種類の細胞の配置や、配置した細胞による組織修復治療を行い、確実かつ正確に正常組織を再生できる新たな治療法の確立を目的としている。昨年度は、病変部では正電荷を帯びた分子が蓄積していることに着目し、正電荷に富む表面に対する細胞配置を検証し、良好に細胞を配置することができた。本年度、さらに検討を重ねた結果、磁力を利用して、マシンで捕捉した細胞を配置の標的となる表面により強く密着させることで、コラーゲンゲルやマトリゲルなどの生体組織を模倣したハイドロゲル、異種の細胞、炎症を生じた腸など、正電荷に富む表面に限らず、様々な表面に30分以内に細胞を配置することができた。最終目標であるマウスの腸内での細胞配置では、細胞を捕捉したマシンを腸内に導入し、体外に設置した磁石でマシンを引き寄せて捕捉している細胞を病変部に強く密着させる必要がある。腸と磁石の距離はおよそ7 mmあり、マシンの磁場への強い応答が求められる。マシンに含有させる磁性ナノ粒子の種類や量を最適化し、上記の要件を満たす磁気応答性を持つマシンを作製した。磁化測定装置を用いた計測により、マシンの飽和磁化は32 emu/gであることが分かった。また、マウス用大腸内視鏡を利用した腸内の標的部へのマシンの輸送や、腸への良好な細胞配置を妨げる腸表面の粘液の除去方法などについても検証を行い、in vivoでの細胞配置において必要となる手技を確立した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、最終的にマウスの腸内の病変部に自在に細胞を配置することを目的としている。これまでの研究により、生体組織を模倣したハイドロゲルや腸組織などにマイクロマシンを用いて短時間で細胞を配置する手法を確立することができた。また今後、マウスの腸内で細胞配置を行うために必要となる、内視鏡操作やマシンの磁気特性の最適化などの検証についても完了した。最終目標に向けて着実に研究が進展しており、おおむね順調に研究が進展していると考えている。
今後は、これまで確立した手法を用いて生きたマウスの腸内に細胞を配置するin vivo実験を行う予定である。具体的には、蛍光標識した幹細胞などを潰瘍性大腸炎モデルマウスの腸内の病変部に配置する。配置した細胞の生存や増殖を調べ、仮に生存率が悪い場合には、医療用細胞足場材料で配置した細胞を覆うなどの対策を講じる。さらに、病変部に配置した治療用細胞による損傷組織の修復について、一定期間飼育後に採取した腸の組織染色などにより評価する。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
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