研究課題/領域番号 |
23H00684
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
加納 修 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (90376517)
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研究分担者 |
小坂 俊介 愛知教育大学, 教育学部, 講師 (10711301)
村田 光司 筑波大学, 図書館情報メディア系, 助教 (20793558)
大谷 哲 東海大学, 文学部, 准教授 (50637246)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 出自神話 / ゲルマン人 / ヨルダネス / ゲティカ / 歴史叙述 |
研究実績の概要 |
ヨルダネス『ゲティカ』翻訳(2)として、67―130節までを雑誌『東方キリスト教世界研究』に投稿し、査読を経た上で掲載された。加納・小坂・村田に加えて、今年度より研究分担者である大谷哲が翻訳作業に参加し、およそ月2回のペースで研究会を開催して、131節から177節まで訳出した。8月後半には名古屋大学に集まって1泊2日で集中的に翻訳作業を進めた。 2024年3月20日に、ゲルマン人の出自神話に関する研究を主導するウィーン大学名誉教授Walter Pohl氏とプリンストン大学教授Helmut Reimitzを名古屋大学に招聘し、講演会を開催した。ポール教授には、“The significance of Origines gentium in early medieval Europe : a comparative approach”(「中世初期ヨーロッパにおける「出自神話」の意義:比較の視点から」)、ライミッツ教授には、“The theft of origins: The Roman past in the post-Roman kingdoms of the Latin West”(「起源の窃取:ラテン的西方のポスト・ローマ諸王国におけるローマの過去」)の題目で話してもらった。翌21日には「ゲティカをめぐる諸問題」と題するワークショップを開催し、大谷・小坂・村田がそれぞれ現在進めている個別的な研究について英語で報告し、アドバイスをもらうとともに、ゲティカに関わる諸問題について議論した。また、本研究プロジェクトの方向性についても議論した。なお、講演会・ワークショップともに、同じ時期に来日し、古代末期・中世初期史を専門とするベルリン自由大学教授Stefan Esders氏にも参加してもらい、幅広い歴史的なコンテクストで研究するための貴重な助言を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
およそ月2回のペースでビデオ会議を行い、ヨルダネス『ゲティカ』の翻訳を全体の約半分にあたる部分まで進めることができた。このペースで作業を進めれば、最終年度には翻訳を完成させることができる見込みである。 ゲルマン人の出自神話の研究に関しては、分担者それぞれが年度末に開催したワークショップで英語で進捗状況を報告した。大谷はヨルダネスがエウセビオス『教会史』をどのように用いたかについて論じ、小坂はヨルダネスのもう一つの作品『ローマーナ』を古代末期の修辞実践を背景として解釈し、村田は『ゲティカ』における哲学に関する知識がどこから得られたかについて論じたが、いずれの報告もPohl、Reimitz、Esders教授から高く評価された。またワークショップでの議論を通じて、それぞれがさらに研究を深めるための手がかりを得ることができた。研究代表者の加納は、カロリング期に筆写された『ゲティカ』の写本を調査中であり、いくつかの写本がキリスト教神学の作品とともにヨルダネスの歴史書を写していることを突き止めている。最近の研究では、これらの写本と関連してカロリング宮廷でゴート王について知識を得ようとする動きがあったとされるが、ヨルダネスの『ゲティカ』が受容・利用されたコンテクストについては、別の状況を想定する必要があると考えられる。一つ一つの写本を丁寧に調査して読み解くことで、カロリング期における『ゲティカ』の意義について再検討の余地があると考えられる。研究代表者・分担者それぞれが、各自のテーマについて着実に研究を進めることができたので、翻訳作業についてと同じく、おおむね順調に進んでいると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度から2026年度にかけて、各年度はじめにZoom会議を行い、当該年度の研究計画について打合せを行う。Zoom会議を定期的に開催し、ヨルダネス『ゲティカ』の翻訳作業を進め、最終年度までには完成させる。また毎年8月に名古屋大学において集中的に翻訳作業を進めるとともに、各自の研究について相互に意見交換をする。実見が必要な写本については海外の図書館・文書館に調査に赴く。 2024年度には、ヨルダネスがもとにした歴史書を著したカッシオドルスに関する研究をリードするアメリカ合衆国クレアモント・マッケナ大学教授Shane Bjornlie、ならびにヨルダネス『ローマーナ』の新たな校訂本を出版したロレーヌ大学博士Anna-Livia Morandを招聘して研究会を開催し、史料解釈の問題を中心に議論する。また代表者の加納は、9月後半にウィーンで開催されるワークショップに参加して、本研究プロジェクトの内容と今後の展開について報告する予定である。 2025年度には前年度までの研究成果を踏まえて研究を継続し、研究成果を発表する。小坂は、環太平洋古代末期学会、大谷はアジア環太平洋初期キリスト教学会を候補として考えている。加納はフランス国立考古・歴史学協会、村田はイギリス・リーズ国際中世学会での報告を予定する。他方で、ソルボンヌ大学教授で、邦訳されている共著『ヨーロッパとゲルマン部族国家』(白水社文庫クセジュ、2019年)を著しているBruno Dumezilを招聘して研究会を開催し、最終年度の国際研究集会の準備を整える。 最終年度となる2026年度には、秋頃を目途に名古屋大学で国際研究集会を開催する。海外から4人、国内から4名を招聘し、研究集会を充実させる。そしてこの研究集会をもとにした論文集を年度末までに刊行したい。
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