研究課題
本研究においてとくに重要な点は、黒曜石やサヌカイト、ヒスイといった石器石材の原産地推定研究が進歩している研究に、青色片岩製石器を一歩でも近づけることにあった。そのためには、青色片岩の産地分布が局所的、かつ散在しているという地質学的な裏付け、すなわち、地質図を作成する必要があった。また、近年、四国周辺の三波川変成岩に関する地質学的研究は急速に発展し、青色片岩が四国東部の眉山-高越地域に突出して多産することが注目され、さらに青色片岩が多産する地質学的原因の一端が判明しつつある。すなわち、エクロジャイト相変成作用という、低温・高圧の変成作用を被っていた証拠である、オンファス輝石ないしはガーネットがこれらとくに高越地区の青色片岩に特徴的に含有されていることがわかりつつある。この成果を考古学的事実に落とし込むことが重要な課題であったが、弥生時代中期の近畿~中四国東部に多量かつ広域に分布していた青色片岩製片刃石斧をこの視点に沿って観察する必要があり、主要な出土資料を一つ一つ確認する地道な作業をおこなっている。また、青色片岩は三波川帯だけではなく中国山地の周防蓮華帯産にも産出するため、これら石斧が確実に三波川帯産であるという証拠を収集するため、基礎作業として両地区の標本を剥片化する作業をおこなった。同じ三波川帯でも、紀州と眉山高越地区の青色片岩に差異はみられないのか、さらに踏み込んで、眉山と高越地区にも差異はみられないかを明らかにしていくことも重要であると考えられ、今後の重要課題として共有するにいたった。
2: おおむね順調に進展している
青色片岩の産地分布が局所的、かつ散在しているという地質学的な裏付け、すなわち、地質図を作成する必要があった。現在、とくに局所的な産出地である、高越地区の地質図を作成途上である。青色片岩が多産する地質学的原因の一端として、とくに高越地区に顕著に認められる、オンファス輝石ないしはガーネットが青色片岩製片刃石斧を一つ一つ確認する地道な作業をおこなっている。現在有力遺跡である徳島市南庄遺跡、徳島市庄・蔵本遺跡、東大阪市西ノ辻遺跡、同市宮の下遺跡、と岸和田市下池田遺跡、栄の池遺跡、畑遺跡、南あわじ市喜来遺跡において、それぞれ出土した柱状片刃石斧100点余りを精査し、その証拠を蓄積することに成功している。また、青色片岩は三波川帯だけではなく中国山地の周防蓮華帯産にも産出するため、確実に三波川帯産であるという証拠を収集するため、基礎作業として両地区の標本を剥片化する作業をおこなった。
今後は、基礎資料を収集のうえ、令和5年度に購入したp-XRFや既存のEDSを用いた分析を進めていきたい。また、高越眉山地区における地質図は、従来塩基性片岩として緑色片岩と青色片岩双方を併せた地質図のみ作成されていたが、柱状片刃石斧原産地を求めるために、とくに青色片岩の分布域を明記した地質図を作成していきたい。現時点で高越山のものはほぼ完成しているが、眉山が未完成となっており、今後進めていく所存である。令和5年度作成した岩石薄片の観察をおこない、高越眉山地区、紀州、周防蓮華帯それぞれの特徴を記載し、柱状片刃石斧との比較をおこなう基礎資料作りをおこなう。すでに、オンファス輝石とガーネットの大半が高越地区に偏っていることがわかっているため、この視点で柱状片刃石斧を観察していくことが必要となる。すなわち柱状片刃石斧の消費先の遺跡における青色片岩製柱状片刃石斧のなかに含まれる、オンファス輝石とガーネットの個体比率を求めることによって、高越山が有力な原産地になる可能性が高まる。この研究は全研究のなかで最も重要な位置をしめるため、中心的な課題としておこなっていきたい。
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東アジア考古学の新たなる地平
巻: 上 ページ: 117-139
季刊考古学
巻: 別冊40 ページ: 99-102
巻: 別冊41 ページ: 14-16
巻: 別冊41 ページ: 50-53